遊びながら幸せに儲ける「ハートトゥハートマーケティング術」

 すべての人、企業が目標とするのは利益でもゴーイングコンサーンでもなく「幸せ」であるはず。
究極の目標である「幸せ」になるために、これまでのマーケティング業界の常識を無視、新たな考えの枠組を使って「遊びながら儲ける」を自ら実践、連戦連勝をあげる松本和彦が語る”目からうろこ”のマーケティング術。

松本 和彦

第3回:99%の人が言えない!企業の最大の目標である「幸せの定義」

 

突然ですがこれから私が問う質問に答えてください。

 

【質問】・・・「あなたの持っている『幸せの定義』を15秒以内で言ってください」

 

私はしばしば意地悪でクライアントの社長にそう聞いてみます。
そうするとほとんどの社長は今考えた「思い付きの幸せ感」を必死で答えてくれます。
すかさず私は「それは従業員さんと共有していますか?」「みなさんそのように答えますか?」とたずねます。
99%の社長は若干のあきらめ顔で「残念ながらできていません」という答えが返って来ます。
最近は一昔前の経営者のように、「会社の目的は売上げ、利益、ゴーイングコンサーンだ」とは言わなくなってきました。「会社の目的は社員、お客様、株主、利害関係者、納入業者、経営者の幸せである」と言う経営者が増えたのは喜ばしいことです。
しかしながら、企業の多くは最大の目標たる「幸せ」が何か、という「幸せの定義」がスッポリ抜け落ちているのが現状です。
本来、企業に関わる人々の最大の目標が「幸せ」であるならば、その目標であるところの「幸せ」はどのようなものなのか、どのように定義されているか、まして従業員、株主、他利害関係者がその「幸せ」の定義を理解しているのが当然のことではないでしょうか?
そもそも商品・サービスは企業の目的である「幸せ」になるための「道具」であるべきではないでしょうか?
そこで私はマーケティングを語る上で、なによりも最初にやらなければならないことは、企業の目的である「幸せ」の定義を確定させ、組成する要素を知り(ニーズ)、それを作る道具である「商品・サービス」を創造することであると強く思います。
さっそくですが、「幸せの定義」とは?

 

それは5つの階段状になっていて1つずつ積み上げることで達成されます。
マズローの5段階の欲求理論とほぼ同じです。

 

1,まずは生きていること。
  当然ですが「命」は必要不可欠です。
  この命を維持するために最低限必要なものが人間であれば食事です。


2,次に必要なものは健康と自由と必要十分なお金です。

  いずれも命までではないものの、健康で文化的な暮らしになくてはならない必需品です。


3,次は仲間や家族とのリラックスした楽しみや絆です。
  ここから徐々に付加価値と言われる、生きていくために絶対必要というものではないのだけど、あれば嬉しいというステージです。


4,他人に奉仕して見返りに承認や尊重され、自己の重要感を満たしたり、
  コンプレックス解消によって満足できるステージです。
  例えばボランティア活動や他人に親切にして「ありがとう」と言われることで得られる
  満足感などが挙げられます。また「きれいになりたい」「やせたい」などの欲求を
  満たすことで満足するステージです。


5,自己成長
  「新たな発見、出会い、気付き」を得て自己成長を楽しむステージです。驚くほど新鮮な機能や
  美味しさや自身の限界を上げた時の達成感などはこのステージに入ります。
  薄型テレビやタブレット型の電話などの初期段階に得る満足感です。

 

これら5段階のステージの中身を達成しつつ、メンテナンスしながら継続して行くことこそ「幸せ」です。
また、基礎ステージは失うリスクに対する対価は大きく(命は対価にたとえられない)、ステージが上がるに連れて得られる付加価値も大きくなり、対価も大きくなります。

図にすると下のような形になります。

 

 

いかがでしょうか、人間の欲求は幸せを達成するために各ステージの欲求を満たしているということがお分かりになったと思います。

この「幸せの定義」こそが人間が生きる上でも、商品・サービスを販売する上でもとても大切なことなのです。
すなわち商品・サービスは幸せの組成物を作り出す道具なのです。
逆に言えば商品・サービスがもたらす効果効能が顧客における幸せの組成物を作り出さないと支持されない=売れないということです。

 

購買単価を含めてさらに具体的に示しますと、下記のようになります。

幸せ理論でいうところの「生きる」に当たる部分が左下の生存欲求です。
食に例えると、生きていくために必要最低限の条件を満たすものは600円以下です。
たとえばファストフード、牛丼店などです。
このステージでは安い、早い、便利が要求され、「美味しさ=機能の良さ」よりも「お腹を満たす」方が優先します。マクドナルドさんなどが該当します。
次のステージ、安全欲求では「美味しさ=機能の良さ」+安さが求められます。
機能の良いもの、美味しいものが売れるのはこのステージです。飲食の購買単価にしておよそ600円以上1,000円未満程度です。モスバーガーさんなどが該当します。モスバーガーさんの成功の要因は早さ、便利さよりも美味しさ感を提供しています。熱々にして美味しさ感を演出するためにオーダーを受けてからの製造になり、その分美味しいけど時間はかかります。が、そこに価値を感じる人を対象にしています。
第3ステージは愛情・帰属欲求です。ここでは仲間や家族との団欒、楽しさ感を求めています。
購買単価は1,000円から2,500円くらいです。
ここからは1人ではなく、仲間や家族との行動(帰属性)が取られますのでテーブルも4名がけが必要になったり、内外装の装飾に気を遣わなければなりません。
また「愛情欲求」は「相手にされる」という意味を含んでいますので、お出迎え、ご挨拶が必要です。
第4ステージの承認・尊重欲求は、ゲストに喜んでもらいたい、認められたい(コンプレックスを解消したい)という欲求です。2,500円から5,000円くらいです。
ここでは奉仕して相手方に喜んでもらい、自身の存在を認めてもらいたい、自分の欠陥を修正して社会から認められたい(整形、美容、痩身など)です。自己満足を楽しみたいというのもこのステージです。
第5ステージは自己実現欲求です。大体5,000円以上です。自己成長ともいいます。自身が新たな発見、出会い、気付きを受け入れ、成長したいという欲求です。
付加価値として一番得たいことなのでその分価値を感じている=対価を支払っても良い、というものです。
このステージでは機能性よりも付加価値が高く、驚きを伴った自己成長感のあるものが必要です。例えば商品においては驚くほど美味しいもの、今まで食べたものの中で一番の品質のものなどですが、サービスにおいては珍しい食材や希少なもの、制作者が有名な職人(すきやばし次郎さんなど)、製法が驚くほど複雑かつ手間のかかかるもの、例えば1ヶ月かけて作るデミグラスソースなどです。
食品以外では、自身の成長になるもの、すなわち知識、技術などもこの欲求の対象になります。
寿司のテクニックを身に付けるために寿司学校に1年で200万円の授業料を支払ったり、専門学校に行くことや海外に旅行してお金を使うのも「新たな発見、出会い、気付き」、すなわち自己成長を得るためのものです。
薄型テレビは最初は驚きや新たな発見がありました。その時は自己成長を提供することができました。でも今は機能はガンガンに上がっているのにユーザーの自己成長を提供することは難しくなりました。儲からなくなったのはそこが理由ということになります。

 

このようにして人間は「幸せになる」=「自己の欲求を満たす」ことが目的であり、その欲求を満たすための対価が購買という形で現れます。
したがって、高い利益を得ようとするなら、できるだけ付加価値の大きい、欲求のステージの高いものを満たすような商品・サービスを開発、販売できるなら利益も大きいということになります。

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