ダイレクトマーケティング課題の救急治療室

通信販売を始めとした、ダイレクトマーケティングの課題解決には、改善のため早急に適切なサポートを必要とします。その現場は、救急救命室さながらです。このコラムでは、今の通販業界の実情や、手遅れにならないためのアドバイスなど、読みながら学べるコンテンツをお届けします。

永瀬晃大朗

E C事業のデジタル化が進まない理由

日本でECが本格的に始まったのは1990年代の後半と言われており、その中でも、リピート通販におけるECのノウハウが整備されてから10年以上が経ちました。

しかし、これだけEC事業におけるノウハウ情報があっても、うまく活かせずデジタルの伸びに悩んでいたり、デジタル事業部を立ち上げても上手く回らなかったりと、そのような企業からよくご相談をいただいています。

ダイレクトマーケティングという、くくりにおいて基礎的な部分は同じであることには変わらないのに、なぜこんなにもお困りの方が多いのでしょうか。
そこで、これまで私がヒアリングやご支援させて頂いた事例をもとに、オフライン広告からデジタル広告への移行が上手くいかない理由を紐解いていきたいと思います。

 

オフライン広告のキャリアが長いほど上手くいかない!?

私のお手伝いをさせていただいている経験だと、オフラインで事業展開をしてきた歴史が長ければ長い企業ほど、デジタルへの転換に苦しんでいる傾向にあると思います。

それには、社内の指標の問題と、転換に伴ってパートナーとのコミュニケーションのあり方の問題があると思われます。そして、それ以外にも、商品そのものの特徴として、メディアの特性の違いによって淘汰されてしまうケースもあると言えます。

こういった問題は、社内が何かしらの依存があり、その問題が解消できないからこそ、起こってしまっていると分析しています。では、依存しているタイプに分けてご説明していきます。

依存型タイプでわかる問題点

1、「コールセンター依存型」

これは、定期コース案内や顧客単価を向上させるアップセルなどの顧客対応を、コールセンターの人的なコミュニケーション能力に頼り切っているパターンです。

もちろん、1対1のコミュニケーションは、お客様に合わせて会話し、応対を変えていけるのがメリットですが、コミュニケーションの精度が不安定なのも事実。
コールセンターの個々人の能力に依存することにより、デジタルになった場合に平準化したコニュニケーション方法を定めることができず、顧客対応が分からなくなってしまいます。

つまり、今までは、電話での補足説明が前提にあったから継続的に売れてきた部分が、デジタルに移行することで、それをどのツールで代替して、どのようなコミュニケーションが必要かなど、指標が整理できていないことから商品の回転数が悪くなってしまうというケースがあります。

そして、このケースの場合は、「社内の人員が削減される可能性」に社員が不安を感じ、セクショナリズムが加速してしまうという現象も起こってしまいます。

コールセンター頼みにならないために

「コールセンター依存型」の対策としては、コールセンターのスタッフだけに情報を集約させず、しっかりと適切なレポーティングを行う体制つくり、どのようなトークスクリプトなのか、どのような点が売れているポイントなのかを整理して行くことが重要です。
そういった情報を、メルマガなど様々なツールに置き換えていくことで対応ができます。

また、最近はダイレクトメールやカタログといったオフラインでの顧客フォローによる反響が悪くなっているため、デジタルデバイスを用いたメッセージの方法・量をどのようにコントロールすべきかという規定をつくることも重要です。

これまではカタログやチラシを送り興味がある情報を選んで読んでもらっていましたが、デジタルにすることで、LINEくらいの情報量が良いのか?
どのように情報を切り分けて発信すべきか?といった整理を行い最適化することも必要になります。

つまり、コミュニケーション部分を今風に合わせたチューニングのために、コールセンターの情報は非常に有用であるので、この部分を丁寧に行うことがデジタルに転換していく近道と言えます。

これらのことは新規顧客獲得のための広告活動においてもあり得ることですが、「コールセンター依存型」の場合は、コールセンターによるコミュニケーションで定期コースなどのご案内を行ってしまうこともあるので、デジタルに転換することで、CRMツールで引き上げることができないというお声も聞きます。
このケースも同様にしっかりとトークの分析を行うことが大切です。

2、「パートナー依存型」

新規顧客の獲得のための広告代理店に当てはまることが多いですが、広告制作のコアな部分を広告代理店や印刷会社に任せてきた企業に多いケースです。

商品の表現の戦略方針を考えるクリエイターが既存の広告代理店側におり、その影響もあり成長してきたような場合、デジタル転換がうまくいきにくい場合があります。

近年では多くの代理店がオフライン広告だけではなく、デジタル広告も行っているケースは増えてきましたが、やはり全てのノウハウが長けているということは少ないです。
オフライン広告で伸びている企業のノウハウに寄っていると考えると、デジタルの情報が入りにくい環境になり、移行したくても上手くあたりパターンをトレースする方法がわからないということが出てきてしまいます。

このように、新しいパートナーを探すということをしてきていなかったからこそ、パートナー選定が上手くいかず、今までのようにすべてを任せる事ができずに停滞してしまうということが起きているのが現状と思います。
加えて、近年はオフラインよりもデジタル広告の制作費が上がっているため「オフラインの時はこの金額だったのに」と言われて応えられないパートナーも増えています。
そうなると制作をアウトソーシングすることができず、ますますデジタル広告への移行ができないという悪循環に陥ってしまうケースもあるようです。

情報を整理してからパートナーを選ぶ

「パートナー依存型」の対策としては、本来は通販企業のニーズをしっかりとヒアリングし適切なパートナーを紹介していくことが解決の糸口となるのですが、先述のように制作費などの感覚の違いなども起きています。

その場合は、事業における「広告費割合」など財務の面も確認し改善して行く場合もあります。
そのため、第一段階としてデジタル広告でどのような広告を行い収益を見える化していくかという形で、事業の目標値をたて、制作コストが大きくなりすぎないように、少しずつ進めていく形をご提案しています。

このタイプに当てはまる企業の場合は、現行の制作の状況や現在商品の売れるポイントの情報を整理して落とし込み、それを、しっかりとマッチさせていくことが重要になります。
そのため、広告事業部をこれまでの知見を整理し、当てはめていくこと、そして足りない点などを整理し補っていくという細かい言語化の作業が必要となってきます。

3、「商品開発依存型」

商品開発には本来、ニーズを深掘りし丁寧にシーズとマッチさせて作り上げていくというようなステップが存在しますが、このタイプは、簡単に言えば、他社商品をコピーするというタイプとなります。
今売れている商品をそのままトレースして商品開発をする企業が、一部ではありますが存在しています。
オフライン広告では「枠」が有限なので、メディア側で競合が同時に存在しないようにコントロールされていることが多いため、このような成功パターンも存在しました。
ですが、デジタル広告では、すぐに検索して比較されてしまい「こっちの方がいい」となってしまい、単純なトレースでは太刀打ちできません。

他社にはない強みを自社開発で

「商品開発依存型」の場合は、他社にはない強みを自社開発で持つ必要があります。ですが、“他社にない強み”は一朝一夕ではできるものではありません。
その点から言いますとこの依存から脱却するには一番難易度が高いと言えるでしょう。
「パートナー依存型」や「コールセンター依存型」はプロモーションなどの部分的な依存が影響を及ぼしていることだったので、理由がわかると改善はできますが、商品は、背骨とも言える部分ですので理由がわかったとしても改善にはかなりの時間がかかってしまいます。
ですので、もし商品開発で、他社のトレースをしている場合は今すぐ見直すことをお勧めします。

デジタル移行を成功するために

通信販売やダイレクトマーケティングの強みは、商品開発から初期のマーケティング、CRMといったリピート活動やフルフィルメントなど、それらをデータ化して分析することでPDCAを回して行けることです。そして、すべてを最適化することで強い企業へと成長するのがメリットです。

そのため、今回のように一部分を依存したり、情報を取ることを拒絶したりすると、デジタル移行において他社とすぐに比較されてしまうのが現実です。

そのため、デジタル化が上手くいかない状況では、

・事業全体の重要な点が見えていないのでは?

・本来必要なデータが取れていないのでは?

・どれかに依存しているのでは?

と社内の点検をしていただきたいと思います。

その中において、商品開発、広告開発、それともCRMなどの点でしっかりと事業が回ってないポイントをしっかり追求できると思います。
それ以外にも、メディア特有のトレンドがあり、オフラインとの違いがあったりします。
例えば、オファー設計がトレンドと合っていないかもしれないと、自社だけでなく競合他社の広告と比較して考えることも重要です。

このPDCAをしっかり回すためには、フルフィルメント全体を考え、競合分析を行い、どの点がウィークポイントなのかを検討していくという愚直な活動が、デジタル移行に成功する要になってくると思います。

マジワンでは、今回お伝えしたオフラインからのデジタル移行についてだけでなく、マーケティングにおける様々な情報をご提供しております。また、企業の事業診断や見直ができる人材が少ないことから、整理や支援などサポートも行っていますので、何かお困り事がありましたらご相談ください。

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