【特集】Yahoo!ニュース「企業トレンド」 ~ヤフーが創り出した新市場、その意図と事情~

Yahoo!ニュースの新コーナー「企業トレンド」が、9月29日、ついにベールを脱いだ。今年5月に、ヤフーからこのサービスについて発表された直後から「金を出せばヤフーのニュースに載るらしい」「ヤフーが広告をニュース配信する」などのウワサや臆測が飛び交った。
実際に公開された「企業トレンド」には、実に130社以上が、任意の情報をそれぞれの見込み客に向けて掲載している。注目のサービスがユーザーに向けて公開された今、改めて「企業トレンド」とはどういうコーナーなのか、また、Yahoo!ニュース内にこのようなコーナーを新設するに至った経緯について、ヤフー株式会社メディア事業統括本部 プロデューサー 萩本良秀氏にお話を伺った。


ヤフー株式会社メディア事業統括本部 プロデューサー 萩本良秀氏

■目的は、企業内にある優良コンテンツを掘り起こすこと
「企業トレンド」は一般ユーザー向けにはYahoo!ニュース内のいちコーナーだが、企業向けには商品である。つまり、企業は掲載料を支払うことで、任意の情報を掲載できるのだ。これまでも、Yahoo!ニュース内に企業の情報が掲載されることはあった。しかし、それはあくまでも、企業が行う記者会見や発行したプレスリリースに触れた媒体社が、自社のニュースとして加工し、発信したものに限られていた。しかし、「企業トレンド」には、媒体社を介さずに、企業が発信したいと思う情報を“確実に”掲載できる。

同社が、このような商品を開発したのには、ウェブサイトやソーシャルメディアなどのデジタルテクノロジーを使って、まだ出会えていない見込み客とどうにかコンタクトをとろうとする企業が増えてきたという背景がある。

「この4~5年で、企業のコミュニケーションはものすごく進歩しました。従来型の企業広報では、いわゆる公式な情報しか出してはいけないという雰囲気がありましたが、今、企業のウェブサイトを見てみると、自社の製品・サービスの見込み客とワンtoワンでコミュニケーションしようという試みを本気で行っています」(萩本氏)

しかし、検索などで偶然に見つけてもらう以外に、そうした活動を一般の消費者へと知らせる有効な手段はない。商品開発の裏話や製品にまつわるノウハウ、また、社会貢献活動など、企業が自社のウェブサイトで発信している情報のエッセンスを掲載する、それが新コーナー開発の出発点だった。

■広告ではなく、あくまでも有料の情報掲載サービス
“Yahoo!ニュース内に任意の情報が掲載できる”――そこが最も注目されている部分だが、同社が目指すのは、「企業トレンド」が情報の起点、ユーザーを企業サイトへと遷移させるジャンクションになることだという。

「我々は“ゲートウェイ”と呼んでいますが、ここに掲載された情報に興味をもったユーザーを企業サイトへ送り込むという部分が、実は一番大切だと思っています。おそらく、ユーザーにとっての『企業トレンド』は、こんな面白いものがあったのかという発見の場になるはずです。メディアの記者が書いた記事は、少なからずメディアの視点が入っているために、企業担当者が伝えたい内容がストレートに伝わるとは限りません。『企業トレンド』を、あえて“ニュース”や“雑誌”と並ぶコーナー名にしたのも、もう企業は情報発信者としてメディアの仲間入りでいいのではないか、という思いからです。だから、なおさら広告ではないのです」(萩本氏)

同コーナーへの情報掲載は有料だが、同社にとっては広告ではなく、あくまでも情報掲載サービスという位置づけだ。掲載料金も1回配信5万400円、8本まで配信可能な月間契約が20万1000円、200本まで配信できる年間契約が201万6000円で、広告に比べると格安な設定となっている。

「1回配信5万400円という価格は、今後も変えるつもりはありません。『企業トレンド』は、企業がウェブ上で発信しているさまざまな情報について、読者が知るきっかけを提供するコーナーです。これが仮に50万円だとしたら、購入できる企業はガクッと減るでしょう。そうなると、今、広告で発信されているものと同じような情報しか掲載されず、新コーナーができても、読者にとっての情報量は全く増えません。50万円で1社よりも、5万400円で10社のほうが、読者価値は間違いなく高くなります」(萩本氏)

■指定のPR会社がクライントの獲得と記事のクリエイティブも行う
「企業トレンド」の販売は、同社と販売パートナー契約を結んだ下記のPR会社が行っている(9月末日現在)。

「起業トレンド」販売パートナー
株式会社インテグレート
株式会社オズマピーアール
共同ピーアール株式会社
株式会社サニーサイドアップ
株式会社スパイスコミニケーションズ
株式会社電通パブリックリレーションズ
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ
株式会社PR TIMES
株式会社プラップジャパン
株式会社フルハウス
株式会社ベクトル

これらのPR会社は、掲載原稿の制作と入稿も担当する。同コーナーでは、報道資料として発表されるプレスリリースそのままの転載はせず、あくまでも消費者視点で書き起こした専用原稿が求められる。タイトルは28文字以内、テキストは250文字が目安だ。

「『企業トレンド』は、企業がウェブ上で行っているワンtoワンコミュニケーションのエッセンス、ダイジェストを掲載して、それぞれの見込み客に問いかけてくださいというのがコンセプトです。しかし、プレスリリースというのは表現が画一的で、一般の消費者にとっては必要のない情報も多く含まれます。PR会社のPRマンは、媒体のターゲットに対する価値を考えて、クライアントである企業の情報を記者や編集者に書いてもらうことに慣れていますので、企業が発信したい情報を消費者側のニーズに合わせた形のクリエイティブにするという部分もお願いしています」(萩本氏)

入稿は、Yahoo!ニュースにニュースを配信している媒体社の記者・編集者と同様、随時受付。PRマンが専用の管理画面で記事を書き、配信ボタンを押せば、誰の目にも触れずにそのまま掲載される。新着順のほか、行動ターゲティングによるレコメンドコンテンツやみんなの感想ランキング、関連記事など、これまで同社が培ってきた回遊レコメンド機能をフルにつけて表示される。

「ニュースについては、事件・事故など、皆が知りたいことはだいたい同じですが、企業情報についてはユーザーそれぞれの興味がバラバラなので、トップニュースはないと思っています。なので、なるべくいろいろなロジックを使って、興味を持ってくれそうなユーザーに情報を届けたいと考えています」(萩本氏)

■トピックスやニュースとはキャラクターが異なるコーナーである
現在トピックスの編集部長を務めている奥村倫弘氏の著書『ヤフー・トピックスの作り方』(光文社新書)でも触れられていたが、一時期、一部のPR会社が「Yahoo!ニュースのトピックスに必ず採用される」といった謳い文句を掲げて注目を集めた。今回の「企業トレンド」のサービスは、そうした動きをけん制する意味合いもあったのだろうか。

「企業の広報・PR部門においては、情報解禁という最初の部分で、どれだけ多くの媒体に取り上げてもらうか。また、それを広告換算するといくら位になるのかという部分が重要視されます。それはトピックスに限った話ではなく、テレビ、雑誌も含めてですが、そうした世界感は、今後もずっと変わることはないと思います。企業のマーケティングプロセスの初期広報という部分においては、今後もトピックスやニュースが重要視されていくでしょう。ただ、初期広報が終了した後の情報というのは、これまでは積極的に扱うメディアはなく、自社のサイト以外に出せるところがありませんでした。しかし、「企業トレンド」では、情報解禁時はもちろん、実際に商品・サービスが発売されてからの情報も掲載できます」(萩本氏)

つまり、「企業トレンド」は、トピックスやニュースとは、全くキャラクターが異なるコーナー(商品)ということだ。Yahoo!ニュースに配信されるニュースは速報。しかも、アーカイブがないため、数週間から長くても3カ月で情報が消えてしまう。トピックスに至っては、3時間もすれば今日のニュースも過去のものだ。それに対し、「企業トレンド」が扱うのは、企業が消費者に届けたいと思う任意の情報である。速報性や話題性、注目度などに左右されることもない。しかも、1年以上にわたり掲載されるため、情報が見込み客に届く確率も高くなる。

■45億PV/月のYahoo!ニュースにも、収益の多角化が必要だった
実は、「企業トレンド」のような商品の構想は、もう何年も前から同社内にあったという。しかし、リーマンショック以前は、広告収入が順調だったために、実際に形にしようという雰囲気にならなかった。

「アナリストの方が、弊社と他社を比較して『ヤフーはPCのみの展開で、広告だけだから成長性が低い』といったコメントをすることがありますが、リーマンショック以降、社内にもそうした危機感が出てきました。Yahoo!ファイナンスについては、PVを集めて広告を取ってくる傍ら、個人からお金を集める課金モデルと、企業との年間契約でIR情報を掲載するという3つポートフォリオがあります。なので、広告がゼロでも実は黒字です。しかし、Yahoo!ニュースは広告だけなので、広告が下がると収益も下がります。つまり、会社としても事業ポートフォリオを増やさないといけない時期になったということです」(萩本氏)

メディアとして、収益の多角化を考えたときに、ユーザーから数万円を課金することは難しい。しかし、相手が企業であれば、数千万円の広告は打てないけれども、5万円なら予算が取れるというところは少なくないだろう。

広告を打つほどの予算はとれないが、世の中の見込み客とより多く接点を持ちたいという企業のニーズ、そして、企業の中にはユーザーにとって有益なコンテンツが眠っているという同社の思惑。その2つが重なって、「企業トレンド」という商品は誕生した。それは同時に、これまでになかった全く新しい市場の開拓でもある。サービス開始初日から130社以上の情報が掲載されるなど、今のところ企業のニーズについては問題なさそうだ。一方の同社の思惑が当たっているかどうかについては、今後、運営しながら検証されていくことになる。(編集部 宮崎)

[新しいニュース、もうすぐOPENします]
ご無沙汰しております、杉山(@sugi_edit)です。今回の記事、いかがでしたか?
10月末を目処に、インターネットビジネスの“ビジネスモデル”や“マネタイズ”にフォーカスしたニュースサイト『ファインドスターインターネットビジネスニュース』という(直球なネーミングの)ニュースをOPENします。
私自身がネットメディアを作っているなかで、いままでこういうサイトがあまりなかったので、私自身が作ってみることにしました。

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