【特集】リクルートのクーポン共同購入サイト「pomparade(ポンパレード)」  ~ユーザー側を向いてサービスを提供しないと期待して頂けないメディアです~

ソーシャルメディアの普及に伴って、今後拡大が見込まれる“フラッシュマーケティング”。そのさきがけとして注目されるクーポン共同購入ビジネスへは、今春以降、約4カ月間ですでに30社以上が参入。8月半ばには、同ビジネスモデルの本家であるアメリカの「Groupon(グルーポン)」も日本へ進出し、これから年末にかけて本格的な淘汰が始まるものと思われる。

広告ニュースでは、同ビジネスへの参入まもない株式会社ぱどの「CooPa(クーパ)」について、インタビュー記事をすでに掲載しているが、今回は参入後1カ月を迎えた株式会社リクルートの「pomparade(ポンパレード)」についてご紹介したい。

「pomparade(ポンパレード)」がサービスを開始したのは、今年7月21日。その初日に出品したクーポンの記載に不明瞭な点があったために“炎上騒ぎ”として各メディアに取り上げられ話題となった(この件については、ポンパレード編集部より謝罪と経緯説明が発表されている)。開始直後から注目を集めることとなった「pomparade(ポンパレード)」が目指すのは、ユーザー側にある“プチ贅沢”というニーズに応えること、そして“新しい体験”を提供していくことだと言う。「ユーザー側を向いてサービスを提供しないと期待して頂けない」と、今回お話を伺った同社 カスタマーアクションプラットフォーム室 ポンパレード推進プロジェクトの淺野哲氏は言う。


株式会社リクルート カスタマーアクションプラットフォーム室 ポンパレード推進プロジェクト 淺野哲氏

■リアルタイムウェブの時代に即したサービスの一つ
同社は、インターネットが一般に普及しはじめた頃から、ユーザーのアクセスの流れに沿う形でネットサービスを展開してきた。ポータルサイトから情報を探してユーザーが動く時代にはポータルサイト「ISIZE(イサイズ)」を開設。検索エンジンが主なトラフィック先となってからは、「じゃらん」「HotPepper(ホットペッパー)」「SUUMO(スーモ)」など、ユーザー側の明確なニーズに応えるネットサービスをSEOを重視しながら展開してきた。

「今は、リアルタイムウェブの時代になりつつあります。TwitterやFacebookによって、友達同士のクチコミから情報がリアルタイムに伝わる時代には、それらからのトラフィックを捉えて情報を提供していくサービスが求められています。また、時間や場所、人とのつながりなどによって、情報はよりパーソナルに最適化されていきます。最適化した情報を提供していきたいというニーズはクライアント側にもあって、弊社では、そうしたニーズに応えるためのインフラを整備してきました。今回の『pomparade(ポンパレード)』は、ユーザーサイドの大きな動きと、クライアントサイドのニーズ、インフラの整備という背景があって誕生したサービスです」(淺野氏)

■他社との差別化は、いかによい商品を出せるかにかかっている
1地域1枚のクーポンを24時間~3日間で販売するという基本的なサービスは、「pomparade(ポンパレード)」も他社のグルーポン系サイトも変わらない。ただし、「pomparade(ポンパレード)」が扱うクーポンの対象領域の多くは、同社が既存媒体を通じてすでに接点があるレジャー、グルメ、レッスン、エステ・ヘアサロン、ホテルと幅広い。

「商材の多様性という部分は『pomparade(ポンパレード)』の強みになってくると思います。弊社ではさまざまな領域でメディアを展開しているので、そことのシナジーを生んで多彩な商品を出品していくことがユーザーの支持につながると考えています。また、さまざまなメディアを展開する中で、クラインアントとユーザー、両方からの課題を汲み取れるという部分、また汲み取った課題を解決するための企画提案力を持っているという部分が弊社の強みです。他社との差別化は、この強みを確守しつつ、いかによい商品を出していけるかにかかっていると考えています。ビジネスとして、クライアントに新規集客と稼働率向上を提供していくという部分はもちろんあります。一方で、このビジネスは、ユーザー側を向いてサービスを提供しないと期待してもらえない。すごく雑誌に似ていると感じます。“『pomparade(ポンパレード)』がピックアップする商品って面白いよね”と思ってもらえなければ、毎日は見てもらえない。ビジネスとのバランスを取りながらも、遊び心を忘れてはいけないと思っています」(浅野氏)

「pomparade(ポンパレード)」は、各メディアの事業部を横断する形のプロジェクト体制で運営されているが、ユーザー視点で商品を企画するための編集部が設置されている。出品後25分で150枚が完売したヴァンテアンクルーズのチケットも、編集部からの企画で商品化が実現した。

「編集部のメンバーが実際にプライベートで商品を体験して、すごく楽しめたので、皆様にも体験してほしいという思いで企画しました。このような実体験に基づいたユーザー視点が、このメディアにとってすごく重要だと思っています。ユーザーは正直ですので、チケットへの評価があっという間にユーザー間で共有されます。『pomparade(ポンパレード)』が扱う商品というのは、万人にささるものばかりではありません。ある人にはものすごく価値があって、ソーシャルメディア上でポジティブな会話をするけれども、そうではなかった場合にはネガティブな会話をする人もいる。ネガティブな会話を気にしすぎてもよくないのですが、僕たちがお勧めする理由というのをきちんと説明できなければいけないと思っています。少しでもやましい気持ちがあって出品すれば、ユーザーはすぐに見破るでしょうから、そこは自身を持って商品を提供していきたい。真っ向勝負というか、すごく人格を問われるメディアだなと感じています。ユーザーの声を受けて体制を強化するなど、ユーザーから学ぶことも多いです」(淺野氏)

■1週間で約4000人のフォロワーを集めたキャンペーン
ユーザー視点に立って企画を議論する編集部を立ち上げる一方で、ユーザー側にある実際のニーズを拾う試みも行った。サイトオープン前の1週間に渡り行った「お願い!ポンパレード」キャンペーンが、それだ。

「キャンペーンには3つ目的がありました。一つは「pomparade(ポンパレード)」の告知。もう一つはフォロワーを集めたいという部分。そして、最後はどういうクーポンが求められているのかニーズを聞き出したかったのです。キャンペーンに参加して下さった方々のつぶやきは、全部ログで持っていて、商材選定に活かしています」(淺野氏)

このキャンペーンは、「#pomparede」のハッシュタグをつけて、憧れのお店や場所、やってみたい特別な体験について、Twitter上でつぶやくと、抽選で65名に総額200万円の商品券が当たるというもの。

「リアルタイムウェブの時代に沿ったキャンペーンにしたかったので、2時間に1回のリアルタイム抽選にしました。一言ずつですがコメントを入れながら当選者を選定・発表するというもので、相当手間もかかりましたが、初日だけで1300~1400人、1週間で約4000人のフォロワーを集めることに成功しました。面白いことに、今、当選した方々が「#pomparede」のハッシュタグをつけて、結果報告をしてくれています。『商品券が届いたので、ホワイトロリータを買いにいきます』とか、『これから屋久島へ行ってきます』とか。もらった商品券を何か他のことに使ってしまおうとは思わないようで、キャンペーンに参加したユーザー同士で、ネタを報告したいという気持ちがあるみたいですね(笑)」(淺野氏)

■全くバイラルが起きずに売れる商品もある
グルーポン系サイトで商品が売れるには、ソーシャルメディア上でのバイラル(クチコミ)が欠かせないと言われている。しかし、ユーザーのトラフィック先はソーシャルメディアだけではないと淺野氏は言う。

「“グルーポン=Twitter”というように思われがちなのですが、それだけでもないというのが1カ月間運営してみての実感です。ものによっては全くバズらずに、ものすごく売れるのです。見逃されがちなのですが、職場のランチタイムで声を掛け合うとか、携帯メールで連絡するとか、電話をするという“リアルなクチコミ”で売れるという部分も結構あるのです。イノベーターを取り込むという言う意味では、Twitterをはじめとするソーシャルメディアは必ず抑えておく必要があるのですが、ソーシャルメディアも含めた“クチコミ”というより大きな視点で捉えたほうが的確だなと感じています」(淺野氏)

■次のメディア作りにも活かせる知見が蓄積されている
最後に、サイト運営開始から1カ月の手ごたえ、そしてこれからについて伺ってみた。

「正直なところ、ユーザーに教えて頂きながら進化をしている段階です。真摯にいい商品を出せばユーザーは応えてくれるので、そこにフォーカスして頑張っているところです。新しいメディアのマーケティングの形という部分では十分に手ごたえを感じています。定石があるわけではないので、すべて検証しながら、しかも競合環境が厳しい中でスピード感をもって進めていくのは難しくはあります。しかし、弊社がチャレンジしていきたい領域であることは間違いありません。次にソーシャルメディアを利用したメディアをつくるのであれば、すぐにでも活かすことができる知見が『pomparade(ポンパレード)』を通して蓄積されていると言えます」(淺野氏)

前回お話を伺った「CooPa(クーパ)」の場合は、参入直後ということもあり、他社のグルーポン系サイトとどのように差別化していくのかという話が中心となった。今回の「pomparade(ポンパレード)」へのインタビューでは、“ユーザーのトラフィックはソーシャルメディアだけに限らない”であるとか、“ユーザーからの意見を直接拾える半面、すばやい対応が求められる”など、運営に関するより具体的なお話を伺うことが出来たと思う。

淺野氏は「どういうメディアであるかは、ユーザーが決める」とも語っていた。メディアの作り手はネタの提供者であって、そのネタをどう受け取り発信していくか(あるいはしないか)は、すべてユーザーが決定する。ネタそのものに魅力がなければ、ユーザーは振り向いてさえくれない。「pomparade(ポンパレード)」が出品商品の企画にこだわる理由も、実はそこにある。(宮崎規江/編集部)