【特集】クーポン共同購入ビジネス参入の「ぱど」 ~これまでに築き上げてきたビジネスとの融合でシナジーを作る~

1000万部ものフリーペーパーを発行する株式会社ぱどが、クーポン共同購入サイト「CooPa(クーパ)」(http://coopa.co.jp)の運営へ乗り出した。初年度に1億5000万円の取扱高を見込んでいる。

クーポン共同購入サイトでは、レストランやエステサロンなどの利用に使える格安クーポンを、枚数限定、期間限定で販売する。24時間以内など、超短期間で売り切るため“フラッシュマーケティング”とも呼ばれている。クーポンごとに割引が発生する最低枚数が決まっており、販売期間内に購入希望者数がその数に届かない場合には契約が成立せず、クーポンは発行されない。逆に、人気のクーポンになると、TwitterやSNSなどのソーシャルメディアネットワークでバイラル(口コミ)が発生するのが特徴だ。

アメリカの「Groupon(グルーポン)」社が、この手法による共同購入割引サービスを開始したところ、1年で黒字化、2年足らずで300億円以上の売上を達成したことで注目を集め、日本では同様のサービスを提供するサイトを「グルーポン系」と呼ぶようになった。日本初のグルーポン系サイトは、ピクメディア株式会社が今年4月に立ち上げた「Piku(ピク)」。その後、約3ヵ月間で20サイト以上が立ち上がる激戦マーケットとなっている。

同社は、何故、今このタイミングでクーポン共同購入ビジネスへ参入するのか。また、他社サイトとどのように差別化していくのか。同事業の統括責任者である、株式会社ぱど 経営戦略室 大木隆太郎氏にお話を伺った。


株式会社ぱど 経営戦略室 大木隆太郎氏

■ジャンル別に複数枚のクーポンを発売することで、他社と差別化
8月5日にサービスを開始した「CooPa(クーパ)」と他社が運営するグルーポン系サイトとの最も分かりやすい違いは、1日に複数枚のクーポンが発売される点にある。日本版グルーポン系サイトはいずれも本家であるアメリカの「Groupon(グルーポン)」に倣う形で、1日1クーポンしか発売しない。しかし、「CooPa(クーパ)」では、グルメ、レジャー、リラクゼーション、ビューティ、くらし、美容クリニックなどのジャンルごとに1日1枚、合計5枚程度のチケットを発売する。グルメチケットを中心に販売するサイトが多い中、多彩なジャンルのチケットを取り扱うのも「CooPa(クーパ)」の特徴といえるだろう。

「グルメだけに限らず、街に必要なさまざまな情報を集められるのが、フリーペーパーをコアコンピタンスとしてきた弊社の強みです。そうした幅広いジャンルに対応できる営業網を最大限に活用していこうと考えています。実は、アメリカのグルーポンモデルでは最も収益力があるのは観光、2位が脱毛、3位がスパというデータがあります〈※1〉。『ぱど』では脱毛やスパ、エステサロンなどの情報を数多く扱っていますので、海外のケースを見る限り、弊社の既存のコンテンツが支持される可能性は高いと考えています」(大木氏)

同社がクーポン共同購入ビジネスへの参入を決めたのは今年5月。当初は「CooPa(クーパ)」もグルメチケット中心での展開を想定していた。ところが、事業計画を作り始めた途端に3~4社の参入が相次ぎ、1ヵ月間ほど様子を見ることになる。

「海外のグルーポン系モデルの成果報酬率はクーポンの売上の50%です。ただ、国内でグルメを中心に展開した場合、それだけの成果報酬が得られるのか疑問でもあったので、しばらく様子を見ることにしたのです。そうしたところ、映画チケットや金券など、仕入れ価格が販売価格を上回る商品が出てくるようになって、早くも価格競争が始まったと思いました。このビジネスモデルを店舗側に立って見てみると、格安のクーポンを1回提供して、リピートで固定客化して儲けるという仕組みです。アメリカの『Groupon(グルーポン)』だと、顧客は平均するとクーポン価格の60%以上多くお金を使うというデータがあります〈※2〉。国内のグルメ、つまり飲食でそれが起きるかというと疑問です。これだけクーポン共同購入サービスが乱立していたら、格安クーポンが毎日たくさん販売されるわけですし、同じ店に何度も行く必要はないですから。ただし、脱毛やエステなどの美容系店舗には1度行くと引き続き通うことになりますよね。そういうリピートする業種のほうが向いているし、成功するのではないかと思っています。ですから今は、固定客化が可能な商材をいろいろと集められる弊社の強みを生かして、まずは売ってみて、いずれは、より反応のあるジャンルに集中特化していくつもりです」(大木氏)

〈※1〉http://blog.yipit.com/2010/07/find-your-focus-a-guide-to-niche-daily-deal-sites/
〈※2〉http://www.grouponworks.com/demographics

■激戦が始まった、今この時期に参入することの意味とは?
冒頭でも触れたとおり、現在、国内のグルーポン系サービスは4ヵ月足らずで20サイト以上が立ち上がるという激戦の様相を見せている。それ程遠くない未来に淘汰が始まるものと思われるが、今、この時期に参入することの意味、あるいはメリットはどこにあるのだろうか。

「今、他社によるマス広告や営業活動によって、グルーポン系サービスの認知はどんどん広がっています。弊社が営業を開始したのは7月に入った頃ですが、クーポンを提供する側である店舗は、私たちが予想していた以上にこのサービスを知っていました。そのため、商談が進めやすいのです。弊社は『ぱど』を通じて店舗との関係ができていますから、『ぱどもやるなら、じゃあ、ぱどに』という具合に、受注の確度が高いと考えています。さらに驚いたのは、「CooPa(クーパ)」がサービスを開始した8月5日当日に、クーポンを掲載したいという店舗側からの問い合わせが複数あったことです。ある意味、指名ですよね。『ぱど』というブランドの強みを改めて実感しました」(大木氏)

もちろん“認知”の部分では、自社の基盤も存分に活用していく計画だ。総発行部数約1000万部の『ぱど』をはじめとする自社の紙媒体でのプロモーションはもちろん、全国に1万3000人、首都圏だけで7000人いる「ぱどんな」と呼ばれる主婦中心のポスティングスタッフを巻き込んで、リアルの世界でもバイラル(口コミ)を広げていくという。

「グルーポン系サービスの情報はバイラルでどんどん広がっていきますが、ネットではないリアルな日常の世界でもバイラルって起きますよね。井戸端会議とか、幼稚園でのお母さん同士の会話とか。そうした日常の会話からネットへとばすという部分にも挑戦していきたいと考えています。というのも、『ぱど』の読者である主婦層を『CooPa(クーパ)』にも上手く取り込んでいきたいのです。リアルの世界のバイラルというのは、ネットと比べると確かにものすごく遅いのですが、サービスそのものの認知をジワジワと浸透させる効果はあります。便利でお得なサービスだと認知された瞬間に、上手くネットに移行してもらえるように、必要な情報はどんどん提供していきます」(大木氏)

■ぱど全体の事業における「CooPa(クーパ)」の役割
過去、広告ニュースでもお伝えしてきたとおり、紙媒体、特にフリーペーパーは休刊・廃刊が相次ぐなど深刻な状況にある。フリーペーパーの発行部数世界№1としてギネスブックに認定された「ぱど」であっても、売上は伸び悩んでいる。

「紙媒体で培った資産をネットにどのようにして転化してマネタイズしていくのかが、弊社の課題です。紙に対するニーズは必ずありますから、そこは残しつつ、ネットと紙を合わせて提供することでシナジーを作っていきたい。そういった意味からもネットビジネスには力を入れていて、今回の『CooPa(クーパ)』も立ち上げに際して専任の部署を作りました。外部からも人を採用しましたし、全国に、フランチャイズも含めて約500人いる営業マンも、営業活動を本格稼動する予定です。実は弊社では、フリーペーパーへの掲載店舗に対して『ぱど商売名人プラス』というCRM機能を提供しています。一度来店されたお客様を離さないための販促ツールなのですが、要は『CooPa(クーパ)』で集客して、『ぱど商売名人プラス』でリピートさせるという、固定客化に必要なPDCAサイクルを一気通貫でできる仕組みを弊社単体で行おうとしているのです。グルーポン系サイトは、呼び込むためのシステムで、リピートさせるという部分が抜けてしまっているのですが、本当に難しいのは、新規顧客を獲得した後にいかにリピートしてもらうかという部分です。弊社にはその部分を補う『ぱど商売名人プラス』というシステムがある。実はここが、他社のグルーポン系サイトとの一番の差別化であり、強みになると思っています」(大木氏)

■ソーシャルメディアの利用人口が増えれば、地方での展開も
アメリカの「Groupon(グルーポン)」社は、1地域1日1枚のクーポンを販売することで成功した。そのため、グルーポン系のサービスは販売期間と枚数に加えて、地域も重要なファクターと言われてきた。「CooPa(クーパ)」は現在のところ首都圏と9月から開始予定の九州のみでの展開だが、「ぱど」自体は全国にフランチャイズや子会社を持っている。

大木氏によれば調整次第では複数地域で一斉に始めることも可能だったが、ソーシャルメディアのユーザーが首都圏に集中しているため見送ったという。魅力的なクーポンを掲載しても、ネット上でのバイラルが起きなければ、割引発生の最低枚数まで購入希望者を集めることは難しい。それだけ、このビジネスにとって、ソーシャルメディアの影響は大きいといえるのだろう。

日本でも今年に入ってからソーシャルメディア、中でもTwitterの利用人口は急激に増えている。クーポン共同購入サイトは、他社も含め、まだ首都圏中心のサービスではあるが、今後ソーシャルメディア人口が広がるにつれ、地方でも展開される可能性は十分にある。(宮崎規江/編集部)

Twitterをはじめとしたリアルタイムでのコミュニケーションを背景に急拡大する「フラッシュマーケティング」。そのさきがけとして盛り上がりを見せるグルーポン系サイトは、現在新興系メディアだけでなく、今回のぱどなど、従来からのリアルメディアやネットメディアを持った企業の参入も本格化してきた。

プロモーションの対象となるのは、折込チラシの時代から広告メディアが取り扱ってきた飲食店や美容・エステなどの店舗。ソーシャルメディアをはじめとした新しいテクノロジーを背景にした、生活者との新しいリアルタイムで密度の濃いコミュニケーション。今後日本のメディアでどのように定着していくのだろうか。広告ニュースでは、引き続きグルーポン系メディアのインタビューを通して、いまとこれからを伝えていきたい。(杉山拓也/編集部)