【特集】官民協働ポータルで注目の地域情報サイト「まいぷれ」 ~全国へカバレッジを広げることで“地域情報の問屋”を目指します~

グルメ、ショッピング、イベント、サークル、医療、防犯など、地域に密着したあらゆる生活情報をワンストップで提供する地域ポータルサイト「まいぷれ」をご存知だろうか。2000年4月、千葉県船橋市でサービスを開始して以来、少しずつエリアを広げてきたが、この1年で急拡大。現在は18都道府県126エリアにまで広がり、一部地域では自治体との官民協働事業へと発展するなど、注目を集めている。
事業化が難しいとされる地域情報サイトで収益を上げ、拡大を続ける強さの秘密はどこにあるのか。同サイトを運営する株式会社フューチャーリンクネットワーク 代表取締役 石井丈晴氏にお話を伺った。


株式会社フューチャーリンクネットワーク
代表取締役 石井丈晴氏(左)、事業開発部パートナー推進事業部 中川拓哉氏(右)

■“どこでもドア”が発明されない限り、地域情報へのニーズは必ず存在する
「絶対に儲からない」という周囲の反対を押し切る形で、石井氏が同社を立ち上げたのは今から10年前。当時、日本の一般家庭にも普及し始めたインターネットは“世界に向けて情報発信”とか“お茶の間に居ながら買い物ができる”とうたわれていた。しかし、石井氏の心の中には、そんなことは絶対に流行らないという強い疑念があったという。
「家の中にずっとこもっているような世の中には先がないし、人間本来の欲求に合わない。インターネットの登場で情報の取得が便利になったと言いつつも、地域の情報に関してはなかなか拾えない状況が加速していました。“どこでもドア”があったなら地域情報は必要なくなるのかもしれませんが、“どこでもドア”が発明されない限り、自分が今いる場所から近い地域の情報に対するニーズは必ず存在します。インターネットは、遠くの情報を得るというよりも、自分がいる地域の資本の少ない個の情報を得ることにこそ魅力的なニーズがあると思ったのです」(石井氏)
同事業は、地域の個店からの掲載料を主な収入源のひとつとしている。
「今“FREE“と言う考え方が流行っていますが、弊社では店舗情報掲載のFREEはやりません。無料から有料課金化できないことを経験測上知っているからです。また、創業以来、割引クーポンもやっていません。割引クーポンを導入すると画一的なプラットフォームに単に地域を載せるだけになってしまって、付加価値が生まれる余地がない。今は、結果としてインターネットが最適なのでサイトという形をとっていますが、地域のあらゆる情報を収集して、流通させることで、情報の偏在をなくしたいと考えています。さらには、情報と情報とを結びつけることで、地域の魅力を引き出したいと思っているのです」(石井氏)

■“偶然の発見”による気づきが求められている
今、情報はどんどん目的別になっている。地域の情報においても、飲食店を探すためとか、住宅情報を得るためというように、専門サイト化が世の流れだ。しかし、石井氏は情報と情報とを有機的に結びつけることが大切という。
「例えば、消防署の仕事始めの行事で出初式というのがあります。一斉放水が行われたりして、子供たちを見学に連れて行くとものすごく喜ぶのですが、出初式の存在を知らない人たちはそれを検索しようともしませんよね。でも、何かの目的で『まいぷれ』にアクセスしたときに『出初式って何だろう?』と“偶然の発見”をして、しかもそれが近所でやっていることを知ったら、出かけるかもしれない。地域には新しいサービスが次々出てくるのですが、新しいサービスというのは“偶然の発見”がなければ、なかなか気づくことがありません。そこをコーディネートするのも『まいぷれ』における我々の役割だと思っています」(石井氏)
“偶然の発見”は、広告においても効果を発揮するという。全国に約150店舗を展開する「株式会社おたからや」は、同サイトのほとんどのエリアで店舗情報を掲載している。事業内容は貴金属や骨董品などの買い取りだが、買い取りを専門とする店があることを知らない人たちに対して同サイトが“偶然の発見”を提供することで、全国どこのエリアにおいても集客へとつながっているというのだ。
「目的別の専門サイトとなるとなかなか当てはまらない『おたからや』のようは業種においては“偶然の発見”が効果につながります。また、不動産やハウスメーカーからもバナー広告への問い合わせをコンスタントにいただいています。もともと家を購入したいという意思がある人は最初から住宅情報専門サイトへアクセスするわけですが、きっかけがあればという程度の人たちへのアプローチとしては、新聞の折込チラシなどで半強制的に見せるか、偶然に関連させるかのどちらかになります。そうしたときに、“偶然の発見”を提供できる『まいぷれ』のような地域のプロモーションがお役に立つのだと思います」(石井氏)

■フランチャイズ制度により、現在は18都道府県126エリアへ拡大
同サイトは、首都圏は一部例外があるものの基本的に直営。首都圏以外の地域は、フランチャイズ制度でパートナー企業により運営されている。パートナー企業は小規模事業者から大手までいろいろだが、システムだけでなく、運営のノウハウをどんどん提供して営業チームを一緒に作り上げていくという。また、同サイトに掲載された情報は、グルメ情報サイトなど、他社のサイトにも掲載されていく。いずれはカーナビゲーションにも、データ放送にも情報を提供していく計画だ。
「今はまだ虫食いの状態ですが、全国にカバレッジを広げることで、ハードメーカーや通信販売事業者との交渉力をつけていきたい。パートナー企業とは、運命共同体として、そうした部分への意識も共有して取り組んでいます」(石井氏)
現在、同事業に加盟しているパートナー企業は16社。このうち1年以上運営しているのは5社で、4社はすでに黒字へと転換し、残る1社も黒字化が見えているという。中でも年間1億円という驚異的な売上を叩き出しているのが、出雲エリアだ。

■地域のリアルタイム情報の集約がユーザー獲得のカギ
出雲市の人口は約14万人。この人口に対し同サイト出雲版のUUは12万。もちろん、このUUには観光客も一部含まれるとは思うが、ほとんどの出雲市民が同サイトのリピーターと言っていいだろう。これほどまでに市民をひきつける理由について、石井氏は「新聞の折込チラシ以上に、地元のリアルタイム情報が掲載されているため」と言う。
同サイトでは、地域の個店から掲載料をもらう形で店舗情報を掲載しているが、それだけではなく、各店舗がリアルタイムで情報を配信できる仕組みを用意している。出雲版では、多くの店舗がこの仕組みを利用して、毎日、競い合うように“本日の特売”や“新着アイテム”などのリアルタイム情報を配信しているのだ。配信された情報はすべてフラットに、エリアトップページの「お店のニュース」コーナーに掲載されていく。各店舗が掲載料を支払いながらも自ら情報発信していく、そのモチベーションはどこにあるのだろう。
「入力する側へのユーザビリティが非常に高い管理システムであることと、各店のホームページにAPIを組み込むことで、『まいぷれ』への配信だけでなく、お店のホームページでも入力した情報が新着として更新できるような取り組みもしています」(石井氏)
この自らが発信した情報が同サイトにも掲載されるという仕掛けは、地域のイベント、サークル、フリーマーケットなどの情報収集にも活かされている。情報元である行政の観光課や公民館、商店街などにASPサービスをシステムごと提供しているのだ。このASPサービスを利用すると、自身のホームページが簡単に更新できて、かつその更新情報は同サイトにも掲載されていく。
「一度、このシステムを体験していただくと、操作も非常に簡単なので、あとはこちらから情報収集に動かなくても、どんどん情報が集まってくるようになります」(石井氏)
従来であれば、地域のイベントなどの情報は、地元の情報誌やチラシ、掲示板、回覧板など、バラバラなプラットフォームから拾うしかなかった。それが、このASPサービスにより同サイトに集約されていく。ユーザーにとっての利便性は高く、同サイトのキラーコンテンツとなっている。

■地方展開への追い風となった自治体との官民協働事業
同サイトは“ここに来れば地域の情報がすべてわかる”という状態を目指して運営されている。しかし、行政情報だけは、どうしてもリアルタイムで取得しにくいという壁があった。そこで登場したのが、自治体との協定による官民協働ポータルだ。自治体は職域上、民間情報を扱うことはできないが、民間企業である同社と協定を結ぶことで、グルメやショッピングなど、市民にとって魅力的な情報とともに行政情報を配信できるようになる。
「自治体からはシステムの構築費のみを頂き、運営費については自立採算しているのが特徴です。民間企業で自治体の予算に頼らずに運営しつづけるというのはなかなか難しいようですが、弊社にはコンテンツを利活用していくノウハウがありますから、それが可能なのです」(石井氏)
現在、官民協働で運営しているのは、神奈川県川崎市宮前区神奈川県川崎市兵庫県伊丹市大阪府交野市東京都新宿区の5エリアで、今年度は埼玉県狭山市も加わる予定。新宿区での事例が新聞に取り上げられて話題となったこともあり、自治体側から興味をもってアプローチしてくる状態が続いているという。それだけでなく、官民協働ポータルでの取り組みが軌道に乗り、実績が出来て以降、地方での展開を担うパートナー企業の加盟も相次いでいる。
「先ほど『まいぷれ』には“地域情報の問屋”的機能があると言いましたが、最終的に目指しているのはそこです。地域の情報を集めて、解析して、つなげて、配信する役割を担っていく“地域情報の問屋”になりたいと考えています。そういう意味からも、全国へのカバレッジを広げるきっかけとなる官民協働ポータルは、弊社にとって追い風です。これからは、媒体という面への対価ではなく、情報をどう流通させるかへの対価が広告収入になっていくのだと思います。今後、弊社もスマートフォンに対応していかなければいけませんが、スマートフォンにおいては、ユーザーが情報を探すのではなく、ユーザー特性によって必要と思われる情報を我々がどんどん配信していかなければいけないと思うのです。ユーザーの人生へのレコメンドをやっていかなければいけない。面白い時代になると思います」(石井氏)

■地域情報サイトは総合戦。わかりやすり強みだけでは語れない
同サイトはユーザー向けには無料だが、店舗向けには従来通りの課金型サービスを提供。動機を持ったユーザーが検索するだけでなく、地域をぶらりと散歩するようにして、ある特定の地域の出来事を知ることができる。では、ソーシャルメディア化しているかといえば、それは(あえて)していない。つまり、同サイトは、これが“成功のカギ”というようなわかりやすい強みだけで語ることができない。地道にひとつひとつ、総合的なサービスを進化させてきた結果が今日の成功につながっている。
ユーザーに受け入れられるメディアの条件は、結局のところ利用するユーザーのみが知っているという事なのだろうか。石井氏がインタビューの最後で言ったように、iPhoneなどのユーザー特性がWebのユーザーと決定的に違うとのだとしたら、必要な情報をどんどん配信していくような、今のWeb版とは考え方の違うメディアが出来上がるのかも知れない。(杉山拓也、宮崎規江/編集部)