【特集】業績好調の「食べログ」 ~不況期でも伸びるサイトが貫くのは“ユーザー視点”~

ランキングと口コミのグルメサイト「食べログ」の勢いが止まらない。同サイトの利用者数は、今年4月の1ヶ月間で1331万人。2009年4月は842万人、2008年4月は526万人だったので、毎年ほぼ6割増しで増えていることになる。さらに、5月13日にリリースされた「平成22年3月期 決算説明資料」では、今年3月時点の月間利用者数が、他のグルメ情報サイトを抑えてトップになっていると報告された。
長引く不況で消費が冷え込む中にあっても、同サイトがユーザーの支持を集める理由はどこにあるのか。また、2009年4月から開始した店舗向け有料サービスの現状、秋・春と続いた書籍の出版について、同サイトの運営責任者である村上敦浩氏にお話を伺った。


株式会社カカクコム「食べログ」運営責任者 村上敦浩氏

■サービス開始以来変わらない“ユーザー視点”によるサイト作り
同サイトがサービスを開始したのは、 2005年3月。当時、グルメ情報サイトは、飲食店が集客を目的としてサイト運営者にお金を払い、店舗情報やクーポン券などを掲載するというモデルが大半。そんな中、同サイトは、ユーザーからのレビュー(口コミ・評価)をもとに、全国のレストランを5点満点でレーティングするという独自のスタイルで、食にこだわりをもつネットユーザーの支持を集めてきた。
「(グルメ情報サイトが登場する)以前は、飲食店というのは立地がすべてでした。しかし、インターネットを通じて飲食店情報を提供するメディアができたことで、立地が関係なくなったのです。そこに、ユーザーによる評価を持ち込んだのが『食べログ』です。実際にその飲食店を利用したユーザーが評価することで、プロモーションを積極的に行う店、要は資本の大きい飲食店が勝つという状況がなくなった。『食べログ』は飲食店に対する営業力をほとんど持っていなかったので、オフィシャル情報は集められなかったのですが、ユーザーにとって本当に必要な美味しいお店の情報を、ユーザーから集めるという方法で、ここまで伸びてきました」(村上氏)

現在、同サイトに掲載されているレストランは58万件。そのほとんどがユーザーからの投稿によるものだ。また、レビューを書き込んでいる人数も13万人を超えている。
「飲食店を探すときに一番使えるサイトが『食べログ』でありたいと思っています。ユーザーが飲食店を探すときの入り口になりたいのです。ただ、今はまだ本当の意味で入り口になったとは言えません。ユーザーからの口コミだけでなく、お店の公式情報も掲載することで、情報量が一番多くて使えるグルメ情報サイトになりたいと考えています。ですから、ユーザーメリットさえあれば他社サイトとの連携も積極的に行っていきます」(村上氏)

■新たなビジネスモデルとして開始した店舗向け有料サービスも好調
“お店の公式情報を集める”という部分においては、同サイトはすでに、2008年4月から無料の店舗会員サービスを実施している。「正確なメニューや店舗からの公式情報が知りたい」というユーザーからの要望に応えたもので、飲食店は同サイトの店舗会員に登録することで、正確で詳細な店舗情報を掲載・編集できるとともに、アクセスデータなど販促に有用なマーケティング情報を無料で取得できる。
さらに、2009年4月からは、新たなビジネスモデルとして、より付加価値の高い有料サービスの提供も開始した。飲食店は有料メニューの利用により、エリアトップページの特定表示枠への掲載や検索結果上位表示などのサービスを受けられるほか、さらに詳細な店舗情報を掲載できる。飲食店向けサービス全体の利用店舗は12月末時点で約2万店だったが、今年4月末の時点では約2万8000店にまで急増している。
「有料サービスはパートナー企業と協力しながら販売しているため、ゆるやかな2次曲線になっています。パートナー企業が増えれば営業人員も増えるので、一人あたりの契約獲得数が一定だとすれば、毎月獲得できる店舗数も増えていく。このサービスは、利用していただくと確実にアクセス数が増えて、来店する人の増加も見込めるので、契約していただいた店舗からは高評価をいただいています」(村上氏)

■ミシュランガイドとの同日発売で話題となった書籍の発売について
昨年10月、同サイトは関西エリアのレストランランキングをまとめた書籍『食べログ 京都・大阪・神戸2010』を発売。今年3月には、第2弾として『食べログ 東京・横浜2010』を発売した。関西版は『ミシュランガイド京都・大阪2010』と同日発売ということで、ブロガーの間でもちょっとした話題をさらった。
「書店で隣に並べられやすいように同じサイズで作りましたが、発売日が重なったのは偶然です。書籍については、サイトアクセスへの影響を期待したというより、認知度の向上を主な目的にしています。書店やコンビニなどのリアルな場所で、まだ『食べログ』を知らない人たちや他社サイトとの違いを意識していない人たちにも認知を高めていただくための施策です。口コミが載っていることは知っていても、本当に美味しいお店が探せるサイトだということを知らない人はたくさんいます。正確なデータをとっているわけではありませんが、書籍を出したことで他社サイトとの違いを知り、『食べログ』を選んで使ってくれる人が増えたと思います。『食べログ』のブランドが広く伝わる、ひとつのきっかけになりました」(村上氏)
実際、書籍を出版して以降、同サイトのランキングを番組や企画に使いたいというメディアからの問い合わせが増えているという。“ランキンググルメサイト”としての露出が増えれば、同サイトの認知度は確実に上がり、他社サイトとの違いを意識した利用者はさらに増えていくだろう。村上氏が言う“本当の意味で、ユーザーがお店を選ぶときの入り口”になる日も、そんなに遠くはないのかもしれない。

■伸びている媒体は、必ずユーザー側を向いている
今回の取材では、同サイトでのTwitterへの取り組みについても伺ってみたのだが、「現状、Twitterとの連携は、必ずしも飲食店検索サイトとしての最重要ミッションではない」という答えが返ってきた。飲食店側がTwitterを活用して限定割引を行うなどの流れはユーザーにとってメリットとなるが、現時点ではそのような飲食店はごく一部のみ。飲食店のつぶやきを同サイトに表示するのは時期尚早というわけだ。
同サイトは、スタート時から徹底してユーザー視点を貫いている。“ユーザーによるユーザーのための飲食店情報”――非常にシンプルだが、それこそが同サイトの強さの秘密に他ならない。取材中、村上氏が言った「ユーザー本意で作られたサイトでしかない」という言葉が印象に残った。

追記:本記事は、4月末の取材をもとにまとめているが、「食べログ」は、5月27日、Twitterとの連動機能を拡充したことを発表した。ユーザーが同サイトに口コミを投稿するとその口コミのタイトルや評価などがTwitterにも表示され、口コミ本文に移動するリンクも掲載される。この機能拡充の背景について、同社広報室 内山知子氏は「『食べログ』のユーザー様の中にはすでにTwitterアカウントを持っていらっしゃる方も多く、Twitter連動を望む声を多くいただくようになったのが導入の主な理由です。Twitterでもクチコミ情報を共有しあい、情報交換することで『食べログ』の利便性も高まり、レストラン選びにさらに役立てていただけるようになります」としている。(編集部/宮崎規江)