[特集]サンプリングとの連動で広告収入が不況以前の売上を越えた、そのノウハウとは?
「広告が入らない」――どの媒体社からもこんな声が聞こえてくる中で、広告収入が不況以前の売上を越えている媒体がある。フィットネスクラブ「カーブス」が発行する会員誌「カーブスマガジン」だ。一時は、不況のあおりで、広告収入がピーク時の4分の1にまで落ち込んだこともある。ところが今、配布数1万個というトライアルから始めたサンプリングプロモーションが好調。数を倍にして、あるいは全店を対象にとリピートする企業も現れた。単に商品を配るだけであれば、広告収入が不況以前を越えるまでの成功はないはず。「カーブスマガジン」を発行する株式会社カーブスジャパン 商品企画部長 中内夢二氏にお話を伺った。
インタビューを通して、サンプリングで会員の声を後日拾う仕組み、流通の棚やPOPにまで影響を与えた仕組みなどが明らかになっていく。
株式会社カーブスジャパン
商品企画部長 中内夢二氏(左)、商品企画部 平賀達也氏(右)
■全国780店舗以上、会員28万人、まだまだ成長を続ける会員組織
カーブスはもともとアメリカで誕生した女性専用のフィットネスクラブ。世界約70カ国に9000店舗以上を展開し、ギネスブックにも認定される世界最大のフィットネスチェーンだ。日本での展開は2005年7月からで、2009年12月末現在、47都道府県に780店舗以上を出店し、28万人以上の会員を獲得。現在も成長を続けている。
プログラムはカーブス独自のシンプルなサーキットトレーニングのみ。円形状に配置されたマシーンとステップボードを使い、30秒の筋力トレーニングと30秒のインターバルを繰り返す。30分間で全身のトレーニングできることから、コンビニフィットネスなどと呼ばれることもある。通常、フィットネスクラブというとプールがあったり、ヨガやエアロビクスのためのスタジオがあったりと大規模になりがちだが、40坪の小スペースで出店できるため、大都市圏であれば駅前に、郊外であればロードサイドや大型商業施設内にという形で、利用者が通いやすい好立地への細かな出店が可能となっている。
■会員増加の理由は、40歳~60歳代の主婦が共に時間を過ごすコミュニティ化
カーブスは女性専用のフィットネスだが、会員属性が非常に特徴的。中心となるのは50歳代で、40歳~60歳代までを含めたシニア層が会員全体の80%以上を占めている。
「子育てが落ち着き、時間にゆとりのできた主婦が自身の健康を気遣って通っています。老後を意識する年代でもあり、健康意識が非常に高いのが特徴です」(中内さん)
また、会員からの紹介といった口コミで入会するケースが多く、メンバー同士の距離は近い。店舗ではスタッフも含めた全員がファーストネームで呼び合うことがルールとなっており、季節ごとにイベントなども企画されるため、会員間のコミュニケーションはさらに強化されていく。もともと地域に根ざした細かな出店ということもあり、生活背景も似通った主婦層が運動をきっかけに集まり、生活に関するさまざまな情報を交換しながら共に時間を過ごすコミュニティとなっている。
■通読率96%の会員誌「カーブスマガジン」も、さすがに不況の影響を受けた
2007年6月に創刊された「カーブスマガジン」は、年4回の季刊誌で25万部を発行している。健康・美容・食・お金など、人生を楽しむためのさまざまなライフスタイル情報に加え、カーブスでの運動を効果的に行うためのテキストのような側面も持つ。スタッフと会員とのコミュニケーションツールという位置づけなので、スタッフから会員へ、それぞれに必要と思われるページを勧めながら手渡しすることが基本となっている。
「読んでもらうための仕掛けとして、配布後に記事に関するクイズを店舗内に張り出して、正解すると、オリジナルグッズと交換できるカーブスマネー1ドルが貯まるという取り組みもしています」(中内氏)
その結果、どのページもくまなく読むという会員は42%、関心のある記事だけを読むという会員は54%で、合計すると96%という高い通読率を誇る。巻末のアンケートハガキにしても、毎号3000~4000枚の返信があることから、読者である会員に好感をもって受け入れられている媒体であることがわかる。
カーブスを愛する会員へ渡される「カーブスマガジン」は、その広告効果を背景に、広告売上を順調に伸ばした。しかし、2008年秋のリーマン・ショックの影響で企業の宣伝広告費が急速に絞られ、広告収入がピーク時の4分の1にまで減った時期さえあった。
■売りにつながるプロモーションは、広告主メリットにも会員メリットにもなる!
「広く浅く伝えるということに関しては広告主側の興味はなくなりつつあって、どうせ予算を使うのであればもっと売りにつながるプロモーションをという大きな流れがあることを、広告収入の減という現実で痛感しました。であるならば、コミュニティとしてのカーブスを利用できないか。会員に喜んでもらえるという軸を動かさなければ、クライアントの成果につながるプロモーションができるのではないか。サンプリング企画はそんな思いから生まれました」(中内氏)
カーブス会員の属性と嗜好は、健康食品や飲料、調味料といった商品との親和性が高く、興味をもつ企業はすぐに現れた。結果は上々。「カーブスマガジン」への広告出稿を実施条件としたこともあり、広告収入を回復させるきっかけとなっていく。
■「どこで売っているの?」と、会員から聞かれる信頼関係
カーブスでのサンプリングは、マガジン同様、店舗スタッフから会員へ手渡しで行われる。信頼しているスタッフから直接手渡されることで、その商品への親しみや興味を持ってもらうことが狙いだ。実際、配布時には、どこで売っているの? いくらなの? いつ食べたらいいの?など、多くの質問が寄せられる。それだけでも、商品と会員とのファーストコンタクトは成功といえるだろう。もちろん、質問にきちんと答えるために、毎回、メーカーからの商品情報をもとにオリジナルの実施マニュアルが作成される。スタッフは事前に商品を試すとともに、実施マニュアルに目を通し、商品知識を得てからサンプリングを行っている。
また、配布期間中は、オリジナルで作成したポスターやポップで店内をディスプレーする。
「スタッフの手書きのポップが加わることもあります。会員に喜んでもらえるものというのが商品審査の基準になっていることもありますし、配布後に「買ったわよ」という声があると、スタッフの励みにもなるようで、回を重ねるごとにどんどん積極的になっています。スタッフが喜んで動いてくれるというのも、他にはない特徴だと思っています」(中内氏)
■カーブスに通っている会員だから、サンプリング後の声が拾える
同社のサンプリングの最大の特徴であり強みは、結果がフィードバックされることにある。街頭サンプリングや店舗でのルートサンプリングであれば、商品を渡した相手に、後日直接会って意見を聞くことは不可能だ。しかし、カーブスは会員が週に2~3回必ず通う場所、スタッフとも親しくなっているため、配布後の声を集めやすい。集まった声は次のマーケティングに活かせることから「カーブスでのサンプリングは効果が高い」という評価となり、何度もリピートでプロモーションを行う食品飲料メーカーも現れた。
また、声を拾ったことで「どこに売っているのか?」という質問があまりにも多いことに気づいたという。それはすぐさま次のサンプリングに活かされ、以降、地域ごとに販売店が明記されたチラシを商品に添えて渡すという改善もおこなっている。
■メーカーが、カーブスでのプロモーションを棚取りに利用
さらに特出すべきは、メーカー側がカーブスでのプロモーションを流通での棚取りに利用したことだ。上記の食品飲料メーカーが「あのカーブスで話題!」というポップをつくって交渉したところ、サンプリングの実施期間中に棚を押さえることに成功したという。
あくまでもメーカー側の動きではあるが、売り場を押さえるための理由になりうるプロモーションであることが証明されたことは大きな成果だろう。
■サンプリングとの連動だから純広も取れる
サンプリングは「カーブスマガジン」への出稿を実施条件としている。サンプリングが売り場につながるプロモーションとして軌道にのったことで、当然、マガジンの広告収入も上昇に転じた。
「繰り返しご利用いただいている企業からは、アンケートで拾った会員の声を入れ込んだ弊社専用のクリエイティブで出稿いただくこともあります。自分たちに身近なカーブスの友達も利用している商品ということで興味を持つ度合いも違ってくるので、広告を打つことで相乗的な積み上げができると評価いただいています」(中内さん)
会員や現場のスタッフにも喜んでもらえるサンプリングプロモーションでクライアントの支持を獲得し、広告収入を不況以前の売上を越えるまでに改善することに成功した同社。今後は、流通との連動や会員を使ったモニター機能などのメニュー化も実現したいとしている。
同社のサンプリングプロモーションが参加企業から指示されるのは、ただ単に商品を配り紹介するだけでなく、試した感想や意見を会員から吸い上げるところまでをフォローしていることにある。会員からの声を受ける形で、購入につながる売り場の情報を告知することを徹底している点も見逃せない。さらには、メーカーが流通の棚を押さえる理由になりうるという部分が最大の強みだろう。企業から支持され成功している企画は、最終的になんらかの形で売り場とつながっている。