オンナゴコロをつかむ4つの“ハブ”~進化する女性マーケティング

「女性の気持ちがわからない・・・」
「彼女たちの生態がわからない・・・」

私が企業の方からご依頼頂くのはいつも、「リアルな女性の実態に基づいたコミュニケーションプランニング」です。

デバイスやコミュニケーションツールが多様化した今の時代、従来のような属性ごとの分析だけでは女性のリアルな実態を的確に捉えることはできません。
これからの女性マーケティングでは、利用しているSNS・メディアをそれぞれ彼女たちの活動拠点=ハブと定義し、ハブごとのインサイト分析・行動分析をすることが必要になると私は考えています。

このコラムでは4つのハブについて分析することで、女性たちのリアルな実態に迫ります。

三井ゆかり

第1回:最新女性クラスタとコミュニケーション戦略

大きなファッショントレンドが生まれにくくなったと言われる今の時代。その背景には女性の嗜好と価値感の多様化があります。
今回のコラムでは、オンナゴコロをつかむ上で欠かせない、最新の女性クラスタとコミュニケーション戦略についてお伝えしていきます。

■細分化する、女性のトレンドとクラスタ
日本のファッションブランドでは、アイテムごとの生産ロットが年々減少傾向にあると言われています。あるトレンドアイテムが生まれても、以前のように街中がそのアイテムで溢れるという現象は見られなくなり、トレンドが“細分化”しているのがその大きな要因です。このようなトレンドの細分化が起きている背景には、女性の嗜好や価値観の細分化があります。まずは今年の7月に、トレンダーズの調査機関「womedia Labo*」から発表した最新女性クラスタ分析の一部をご紹介します。

 




出典:「女性の消費行動とライフスタイル」に関する調査

 

思わず、周囲の女性を当てはめてしまった方も多いのではないでしょうか?
このように、「F1」「F2」といった年齢属性だけではなく、そこに嗜好や価値観を掛け合わせると、これほどまでに多くのクラスタが存在するのが、現代の女性なのです。

■クラスタ内で同化する女性たち

女性の嗜好や価値観が細分化した背景を、「人と同じのはイヤ」という反同化の傾向とする捉え方もありますが、私はむしろ「クラスタ内の同化は加速している」という正反対の見方をしています。SNSの普及により、自分のなりたい姿に近い人さえ見つかれば、簡単にその人のライフスタイルにまつわる情報が手に入り、マネすることができる時代です。あるインフルエンサーがお気に入りのアイテムを紹介すれば、同じクラスタの女性はこぞってそのアイテムを購入する。その結果、クラスタ内では似たようなメイク、似たような服装、似たような行動をする女性が増えていきます。

またSNSを積極的に使いこなす「ソーシャルアクティブ」な女性にとっては、朝作った朝食、今日のファッションコーディネート、ランチで食べたもの、読んだ本、参加したイベント、そんな日常の全てが「SNSの投稿ネタ」となります。するとSNSでつながっている友人(≒同じクラスタ)に共感されること、うらやましがられることを1つの選択基準として、消費し行動するようになります。こうやってさらに、クラスタ内の同化は加速していくのです。

■細分化時代のコミュニケーション戦略

私の師匠である、さとなおさん(コミュニケーション・ディレクターの佐藤尚之氏)の言葉を借りると、「伝えたい相手によって、伝える内容を変えないといけない」。女性の嗜好や価値観が細分化した今の時代、同じ文脈(ストーリー)で一様にコミュニケーションを図ることは、まさに雲をつかむようなことです。しかしターゲットを明確にし、各クラスタごとに文脈を変え、丁寧にコミュニケーションをしていけば、クラスタ内の同化が加速しているからこそ伝わりやすく拡がりやすく、そのアプローチはそんなに大変なことではありません。
現代の女性に共感を得られる文脈は、クラスタによって全く異なる。その事実を正しく理解し対応することが、細分化時代の女性向けコミュニケーション戦略の基本といえます。

■最新トレンド分析

それでは実際に、あるクラスタの女性の心をしっかり捉え、トレンドとなった最新事例について2つご紹介します。

1)スーパーフード ~働く女子の“納得感”と“罪悪感”の融合~

ファッションでもライフスタイルでも最新トレンドを追いかける「アクティブトレンドセッター」の間で爆発的トレンドとなったのが「スーパーフード」。アサイーやココナッツオイル、チアシードなど、美容と健康に良いとされる食材の総称です。彼女たちの師匠的存在である人気モデルや有名タレントがこぞってSNSで取り上げたことから、一気に火がつきました。一見パーフェクトに見えても、その裏で努力や苦労を重ねているインフルエンサーだからこそ、そのリコメンドはただファッショナブルなだけではなく、圧倒的な“納得感”をもって受け入れられたのです。そして普段忙しく働く「アクティブトレンドセッター」たちは、メイクをしたまま寝てしまったり、スキンケアに5分しかかけられなかったり、ジャンクフードに頼っていたりと、美容と健康への“罪悪感”を日常の様々な場面で積み重ねています。「スーパーフード」は、そんな罪悪感を一気に帳消しにしてくれる(ように思える)からこそ、彼女たちの最高の救世主的存在として一大トレンドになったのです。

2)ニトスキ ~オシャレな食卓の裏の、あくなき努力~

「ニトスキ」とは、ニトリで販売している鉄製のフライパンの略称です。鉄製で熱効率も良いので、短時間で美味しい料理を作ることができ、特にステーキやハンバーグなどの肉料理には最適の“魔法の道具”とも呼ばれています。さらに、そのまま食卓に出してオシャレ、というフォトジェニックさが「セレブママ」たちを起点にトレンドとなりました。
世帯年収の高いママのクラスタである「セレブママ」は、以前の「セレブ」のイメージとは全く異なり、高価なものばかりを買うのではなく、ニトリやコストコ、IKEAなどのリーズナブルで実用的なアイテムを上手に活用するし、ユニクロやZARAなどのファストファッションも積極的に取り入れる。その一方で、バッグや靴などは高級ブランドを身につけるというメリハリを持ち合わせています。また自分個人だけでなく、子供や夫、そして食器やインテリア、テーブルコーディネートなど家中すべてにおいてオシャレでフォトジェニックな生活を目指しています。「ニトスキ」はまさに、実用的でリーズナブルでフォトジェニックと、「セレブママ」たちの心をつかむ要素が満載だったのです。

女性を細分化したクラスタは、日々変化していきます。オンナゴコロをつかみトレンドを生みだしていくには、ターゲットがどのクラスタにいるのかを見極め、クラスタごとの緻密なコミュニケーション戦略を立てることが必要となります。その上で女性とのコミュニケーションに欠かせない“4つのハブ”を上手く活用することが欠かせません。次回以降のコラムではこの“4つのハブ”についてご紹介していきたいと思います。

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