【特集】変化を求められる“インタラクティブエージェンシー”の今 メンバーズ

株式会社メンバーズは、今年5月、2011年3月期から2013年3月期までの第一次中期経営計画を発表した。同社は、これまで自らを“インタラクティブエージェンシー”と位置づけ、ウェブ制作や広告によって企業のネットマーケティングを支援してきた。今回発表された第一次中期経営計画によると「ソーシャルメディア時代をリードし、クライアントと共にビジネスを創造するネットビジネスパートナー」へと事業コンセプトを転換するという。
同社は、何を行おうとしているのか。同社 マーケティング企画・サービス開発室 室長であり、発表された第一次中期経営計画の作成にも参加された塚本洋氏に詳しいお話を伺った。


株式会社メンバーズ マーケティング企画・サービス開発室 室長 塚本洋氏

■市場が成熟し、単純な制作・広告では利益がでない
同社は、主にウェブサイトの制作・運用と広告代理業を手がけ、年間で約40億円を売り上げている。ウェブ制作においても、広告においても、PDCAを回しながらクライントと長く付き合っていく運用型の案件が多く、売上全体の7~8割を占める。そのため、年間を通して安定した収益を上げているのが特長だ。しかし、前々期(2009年度)の業績は振るわなかった。背景には、市場の成熟による単価の下落と競争力の低下があるという。

「今、市場は大きくなって、立ち上がりの時期から成熟にさしかかっています。そうなると、マーケティングの観点からしても資本力のあるところが勝っていく。単純業務も多いサイトの制作やリスティングの入札で顕著なのですが、人件費が安い海外にセンターを作ってそちらで行うということが起こってくる。ツールの開発についても、固定費がかかってきますから売上が大きくて資本力があるところが強い。ノウハウについても規模が大きいほうが集約しやすい。規模が小さく、資本力もない弊社のようなところは追いついていけない状況なのです」(塚本氏)

確かに、ネット広告は好調と言われているが、総合代理店、ネット専業代理店含めて、すべての広告代理店で売上が伸びているわけではない。そうした状況から抜け出すための戦略が、第一次中期経営計画で示された「ソーシャルメディア時代をリードし、クライアントと共にビジネスを創造する」という事業コンセプトに集約されている。目指すのは、インタラクティブエージェンシーではなく“ネットビジネスパートナー”だという。

「弊社は“ネットビジネスパートナー”という新しいポジションを作っていこうと考えています。要は、言われたとおりに運用や制作をするのではなく、もしくは言われたとおりに広告枠を買い付けるのでもなく、もっと積極的に提案をして、お客様のビジネス成果を出していくような存在になっていきます」(塚本氏)

■経営改革とマネジメント層の意識改革で、年間1億円のコスト削減
前期(2010年度)、同社では、前々期の業績を受けて、徹底した経営改革とマネジメント層の意識改革を行った。その結果、年間約1億円のコスト削減に成功し、会社としての組織力を高めることができたという。黒字回復と組織力強化によって、次の2011年度は攻めに転じようということで、今回、同社として初めて作られた中期経営計画によって、新しい事業コンセプトが打ち出されることとなった。

中期経営計画を作るにあたり、同氏は取引のある20~30社にインタビューを行った。聞き出したかったのは、同社についての率直な印象、また、取引先となる企業が今どのようなことに興味・関心をもっているのかということ。インタビューを通して集まったのは「提案が少ない」など、同社にとっては厳しい意見ばかり。その中でも、最も印象的だったのは「私たちはもうメンバーズ学校を卒業しました」という一言だったという。

「インターネットの黎明期においては、弊社から学ぶことがいろいろあったけれど、今はもう学ぶことがない。だから、発注するだけの関係になってしまう、と言われたのです。これを聞いたときに、もっともだと思いました。お客様はすでにインターネットを自分のこととして使いこなしているので、これから僕たちがもっと勉強をしてお客様よりも詳しくなっていくというのは無理です。であるならば、お客様と並んで、一緒にビジネスを創り出していく方向を目指そうと。このインタビューでも、もっと提案をしてくれてビジネスを一緒にやっていくようなところがいい、という意見を頂いたのです」(塚本氏)

お客様と共にビジネスを創り出すという姿勢は、同社の代表である剣持忠氏が創業時からずっと抱いていたビジョンとも重なるという。同社には、経営理念・ビジョン・行動指針からなる「メンバーズ・ウェイ」というものがある。この中には「顧客の成長、顧客の利益の中にこそ我々の成長や利益はある。常に顧客の側から考えよ」という一文がある。

■ソーシャルメディアも顧客のビジネス成果を出すための一手段
第一次中期経営計画で示された事業コンセプトの中で、“ネットビジネスパートナー”と並ぶもう一つのキーワードが“ソーシャルメディア”だ。「これからの時代、ソーシャルメディアを活用していかなければ、お客様のビジネス成果は出せない」と、同氏は言う。

「ソーシャルメディアは、世の中の情報のあり方を本質的な部分で変えていくと思います。上手く活用することで、これまで以上のマーケティングイノベーションみたいなものが起こるかもしれない。だからこそ、弊社はそこに特化して、他社と差別化していきたいと考えているのです」(塚本氏)

ソーシャルメディアについては、業界内での関心も高く、すでにさまざまなメディアで、ソーシャルメディアマーケティングの事例が紹介されている。

「今はまだ、バズマーケティング的なキャンペーンやプロモーションの手段として、単発で利用されている例がほとんどだと思います。弊社では“ソーシャルメディア”を広告の代替手段とか、キャンペーンの話題作りの代替だけというようには考えてはいません。もっと中長期的に企業と消費者がコラボレーションしていく、あるいは共創していくメディアだと捉えています。なので、企業と消費者とがじっくり関係をもっていくにはどうすればいいのかという視点で、サービスを提供していきたいと考えています」(塚本氏)

8月に入り、同社からはすでに、Twitterを活用したレビュー投稿ASP「ツイっとレビュー」や、「Facebookファンページ開設支援サービス」など、いくつかのソーシャルメディアサービスがリリースされている。Facebookに関しては、今後、アプリ制作なども行っていく予定だという。

「どのサービスも単体のツール売りのような状態でリリースしていますが、トータルサービスの中の一つのメニューとして組み込めるものを開発しています。弊社は、制作もできて広告もできる、しかも運用に強いという特徴を生かして、お客様のネットでのビジネスを総合的に支援していきたいと考えています。第一次中期経営計画の中では、そうした総合支援を“まるごと運営サービス”と表現していますが、その“まるごと運営サービス”に組み込んでいけるサービスを、今、どんどん開発しているのです」(塚本氏)

つまり、同社にとっては、枠の販売という意味での広告も、ウェブ制作も、リスティングも、そして、そこに特化することで他社との差別化を図ろうとしているソーシャルメディアについても、すべては等しく顧客のビジネス成果にコミットするための一手段なのだ。

■正社員全員プロデューサーに。リスティング、デザイン、システム、コンサル業務は外部へ
第一次中期経営計画で打ち出した事業コンセプトを現実のものとするために、同社は、人材戦略を大きく変えようとしている。顧客のビジネスを深く理解し、サービスを企画提案することはもちろん、その企画を具体的に実現していけるプロデューサーを、3年かけて10人、その候補を30人育成しようというのだ。10年後には、正社員全員をプロデューサーあるいはマネジメントに携わるビジネスリーダーにしていくという。一方で、リスティングの運用作業や大量制作、プログラミング作業などについては外部リソースを上手く活用しながら、組織の見直しを行っていくことになる。

「弊社でも一部行っている高度な専門性を要するデザインやシステム、コンサルティング等の業務、リスティング入札等の大量のオペレーション業務は外部パートナーと連携していこうと考えています。弊社は7月28日にデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(DAC)との業務資本提携を発表していますが、これもこのパートナーリング方針の一環です。」(塚本氏)

つまり、これまで社内でリスティングの運用を行ってきたスタッフ、Webデザイナーやプログラマーも、顧客とコミュニケーションしながらネットビジネスを共に創り上げるプロデューサー、あるいはビジネスリーダーへと育成していくこととなる。

「難しい方向へいっちゃっています」と同氏は言うが、人事評価システムの見直しや教育制度の見直しはすでに始まっており、社内での説明会も行われている。これが実現すれば、組織そのものが大きく変わり、同社はより競争力の高いプロフェッショナル集団へと変化していくことになる。

今回の取材では、今、ネット広告市場の成熟という背景がある中で、メンバーズという会社がどう変わろうとしているのかについて、すでに発表されている中期経営計画に沿う形ではあるが、より踏み込んだ貴重なお話を伺うことができた。今年は、第一次中期経営計画の初年度ということで、まだ最初の一歩を踏み出したばかりだが、同社は、2013年3月期目標で売上50億円、さらにその次の3カ年で東証二部上場という目標も掲げている。今後も広告ニュースでは、同社がどのように変わり、どのように成長していくのかに引き続き注目し、お伝えしていきたいと思う。