【特集】Twitterなどのソーシャルメディアが注目される今、広告会社は何をするべきか ~『キズナのマーケティング』著者の池田紀行氏に聞く~

昨年から今年にかけて、ソーシャルメディア、中でもTwitterに注目が集まっている。各企業は一斉にTwitterアカウントを取得。一部ではTwitterと連動したプロモーションが行われるなど、具体的な動きもみられるようになってきた。その一方で、そうした動きについていけず、焦りを覚えている業界関係者は少なくない。今、なぜソーシャルメディアが注目されるのか? 広告業界にとってソーシャルメディアはどう必要なのか? 
「Z会」や「マイクロソフト」など多数の企業でソーシャルメディアマーケティングを成功へと導き、その実態と取り組みについて詳しく解説したアスキー新書『キズナのマーケティング』を4月に発売した、トライバルメディアハウス 池田紀行氏にお話を伺った。


キズナのマーケティング』著者で、株式会社トライバルメディアハウス代表取締役社長 池田紀行氏
●ブログ:http://www.ikedanoriyuki.jp/
●ツイッター:http://twitter.com/ikedanoriyuki

■ソーシャルメディアは“魔法の杖”ではない
今、広告業界で起こっているTwitterブームについて、同氏は「このままだとソーシャルメディアの本質が理解されないままTwitterという言葉だけが担がれて終わってしまうのではないか」と言う。
「広告主側も、広告会社側も、とにかくソーシャルメディアやTwitterありきでマーケティングを考えていこうとしていることが問題です。なぜソーシャルメディアマーケティングを行う必要があるのか、なぜソーシャルメディアの中でもTwitterを使う必要があるのかという大前提が全く議論されていない。僕は過去にいろいろな業界にいて、いろいろな部署の方とお付き合いをしてきましたが、とにかく広告業界は異常に“魔法”を求める傾向が強いと思います。今のTwitterブームも、Twitterを使えば認知が上がって、口コミが爆発して、商品が売れるという魔法への期待だと思うのですが、Twitterやソーシャルメディアを使ったからといって、今までと同等あるいはそれ以上に売上が上がるなんてことは、まず絶対に起こりません。本にも書きましたがTwitterもソーシャルメディアも“魔法の杖”ではないのです」

■今、広告業界でTwitterが注目される理由
では、なぜ、今これほどまでにソーシャルメディア、中でもTwitterが注目されるのか?
「理由として考えられるのは、リーマンショックを契機に企業の広告宣伝費が大幅に削減されたことが大きいと思います。広告宣伝費が下がってもマーケティング目標は下がりませんから、効果を何倍かに上げないといけない。そのためには、何か新しいことをやらなければいけない。そこで、お金がかからず、新しいプラットフォームであるソーシャルメディア、中でも一番盛り上がっている感のあるTwitterに白羽の矢が立っているのだと思います。でも、そこからボタンを掛け違っているのかもしれません。ソーシャルメディアは、今まで存在してきたものの何かを代替するようなものではないのです。広告予算が削られてマスメディアでの施策ができないから、お金のかからないソーシャルメディア、しかもソーシャルメディアの中の一つでしかないTwitterに切り替えて、マスメディアなどに匹敵するような効果を出そうという期待がそもそも大間違いかもしれないのです。冷静になって考えてみてください。認知度を上げたいと言っても、フォロワーが1000人だ、1万人だというTwitterで、視聴率1%=100万人と言われるテレビCMと同じ効果が出せるわけがないでしょう」

■ソーシャルメディアとマスメディア、それぞれにポジショニングがある
近年、広告業界全体を“マスメディアはダメだ。これからはネットだ”というムードが覆っている。一部メディアでは「終焉」や「崩壊」といった過激な言葉を使って論じられたりもする。
「マスメディアのパワーは引き続きものすごく巨大です。終焉や崩壊なんてしていない。僕はソーシャルメディアにどっぷり浸かったマーケティングを支援してきたからこそ、ソーシャルメディアの限界を知っているし、マスメディアのパワーをものすごく痛感しています。昔に比べれば、マスメディアの費用対効果が下がっているのは事実でしょう。でも、認知という部分において、費用対効果が最もいいのは今でもマスメディアです。一人あたりのCPMが一番安いのは、今でもテレビCMですよ。ソーシャルメディアは認知の向上には向きません。でも、自社に興味を持ってもらえていない消費者とゆるくつながって、そこから少しずつ自社商品に興味を持ってもらったり、会話をする中で、自社との関係性を築いていくことには優れたプラットフォームです。ソーシャルメディアとマスメディア、それぞれにポジショニングがあるのです。広告主側にも、広告会社側にも、そこを勘違いしている人が多すぎます」

■今、広告業界がやらなければいけないこと
Twitterはまだまだ新しいメディアだ。新しいがゆえに注目もされるし、話題にもなる。広告業界、とくに広告会社には“この流れに乗り遅れてはいけない、Twitterを使った提案をしなければ”という焦りがある。
「Twitterありきで考えること自体は無意味です。ただ、今の世の中で起こっているソーシャル化への流れは、絶対に止まりません。今後、企業はソーシャルメディアという海に浮かんだ船に乗ってマーケティングを行っていくことになります。だから、これからの広告人はソーシャルメディアという海の中に住む人々の声に耳を傾ける必要がある。どういう場所で、どういう人が、どんなことを話しているのかを知る必要があるのです。ソーシャルメディアの世界は、知っているのとやっているのとではマリアナ海峡と同じくらい深い溝があります。まずは、ソーシャルメディアという海に飛び込んでみること。ソーシャルメディアマーケティングは、ソーシャルメディアを使ったマーケティングですから、ソーシャルメディアのネイティブにならないと、それがいいのか悪いのか、使う意味があるのかないのかさえも分からないですよ」

■ソーシャルメディアマーケティングの一側面だけを取り上げるメディア側の罪
今回の池田氏のインタビューでは、Twitterをはじめとしたソーシャルメディアマーケティングを“魔法の杖”として報じるメディアに対する危険性についてもご指摘をいただいた。ここ1ヶ月でTwitterを使った販促プロモーションの事例が多数出ており、『ファインドスター広告ニュース』でもそれらをニュースとして取り上げている。一方でこうした事例を集め、読者に「ソーシャルメディアマーケティングさえすればすぐに売上があがりそうだ!」と思わせる特集がいたるところで組まれている。しかしながら、「紹介された他社事例をそのまま真似たところで、抱えている課題や商品特性が違うのですから成功するわけはありません。事例は表面的なところを学ぶのではなく、その背景や共通項に目を向けるべきです」と池田氏は言う。成功事例以上に、失敗事例や成功とも失敗ともつかない取り組みがTwitter上に溢れているが、こうした情報がメディアに取り上げられることはまずない。ソーシャルメディアマーケティングを活用した販促プロモーションの模索は、まだこれからだ。(編集部/杉山拓也、宮崎規江)