[特集]この不況期に業績を伸ばしているIMCプランニングブティック、インテグレート ~広告主だけでなく、広告会社から支持される理由とは?~

マス媒体の売上が急落している中、戦略PRという言葉に注目が集まっているが、戦略PRという言葉が流行した2009年には「無料で広告してもらえる」「広告よりも費用対効果が高い」といった謳い文句でPR会社が自社のサービスを紹介、書籍なども発行された。テレビや新聞、雑誌への広告出稿をやめ、記事として取り扱ってもらえるPRを選ぶという事も選択肢の一つかもしれない。
ただ、果たしてそれは広告主の売上という結果につながっているだろうか。あるいは、単に効果を測定しにくいマスメディアの無料化、メディアからPR会社への支払先の単なる変更にとどまってはいないだろうか。

今回、編集部はIMC(統合型マーケティングコミュニケーション)を手がけるインテグレートに注目した。理由は、同社が広告会社の中で評判がいいこと、また「話を聞いてみたい」という声が聞かれたため。同社は何故、広告会社からの注目を集めているのか、また同社のサービスの効果はどうなのか。
編集部はまず同社の業績を調査。同社はこの不況下にあって、売上が前年比20%増の急成長を遂げており、今期はさらなる成長を見込んでいるという。単に注目されているだけでなく、業績も伸ばしていることが分かった。それは何故か、同社代表取締役CEOの藤田康人氏にお話を伺った。

株式会社インテグレート代表取締役 CEO 藤田康人氏
株式会社インテグレート
代表取締役 CEO 藤田康人氏

藤田氏といえばキシリトールを日本で広めた人として知る人も多いのではないだろうか。むし歯予防効果のあるキシリトールという甘味料だが、薬事法の関係で広告表現上、効果を表記できなかった。そこで同氏はPRという手法を使い、今でいうインフルエンサーマーケティングを行った。それも、Webがまだ商業利用される前の時代に、リアルでこのPRを成功させたのである。

メディアへのPR活動のみならず、全国で500人の歯科医と提携し、フェイスtoフェイスで生活者に虫歯予防効果を伝えるなど、当時としては画期的な方法でキシリトールを世に知らしめた。こうした経験から、2007年、インテグレートを立ち上げた。インテグレートは、マーケティングPR会社のコムデックスをグループ企業におき、連携して業務を行っている。インテグレートは、藤田氏がキシリトールでとったPRという手法を有効に活用して、より広い範囲を巻き込んだマーケティングを行う会社である。

■広告が(A)アテンションを取れなくなった今、中立・公正・第三者の情報が注目される

「情報バリア」という言葉があるように、情報流通量がかつての530倍とも言われる情報時代では、既に広告でアテンションをとる事が難しくなった、と言われている。だとすると、消費者が広告に接触する以前に、中立的な情報を流しておき、興味を持った状態になってもらう必要が出てくる。
「消費者の『前に聞いたことあるよね。ああ、この広告だ』というプレ・インタレストを形成する、広告以外の情報のキーワードは中立・公正・第三者です。」(藤田氏)
企業が一方的に言っている情報はどうも本当ではないような気がする、あるいは都合のいいことだけを言っているのではないか、というのが消費者の頭の中にある。しかし、メディアという第三者によって、中立的な立場で発信された公正な情報は消費者の耳に届く、と同氏は言う。

「でも、多くのPR会社が『もう広告は効かないから、代わりにPRだ』と言っていますが、我々はそうは思いません。PRというのはあくまでもメディアの編集の方が客観的に書くものであり、一つの製品についてのメリットだけを書く事はありません。」

■「ベビーフット」の成功事例

同社の成功事例として、足裏の角質を削らずに落とす株式会社リベルタの「ベビーフット」(http://www.babyfoot.co.jp/)がある。運営は株式会社3i(http://www.threei.co.jp)(現:株式会社アイ・エム・ジェイ(http://www.imjp.co.jp/) 統合型マーケティング戦略室)が行った。

「ベビーフット」は通販を通して、クチコミで売れていた商材だったが、店舗での販売を拡大したいというニーズが出てきた。また、クライアントとしては短期的なブームで終わらせたくないという要望もあったという。

同社に相談があったとき、フットケアや足の健康は特に世の中で話題になっているわけではなかった。果たして各メディアが取り上げてくれるようなトピックスになるのか。同社はまず過去3年分の身体のどの部分に関する報道が多かったか、新聞での報道状況を調査、徹底的に分析をした。また足の話題がテレビでどのように報道されているかを調べていくうちに、どんな季節に足の話題が出やすいのかが明らかになってきた。

報道状況の調査・分析を行う一方で、専門家がその商品についてポジティブなのかどうかの調査、病院など医療機関での調査、もちろんユーザー調査、通販でお買い上げ頂いているお客様の意見も集める。そうして「情報ファイル」なるものを作り上げていった。

同社が作成する、この30ページほどの「情報ファイル」は、製品の情報を掲載しただけのプレスリリースとは異なる。メーカーが新製品を発売する場合、通常であれば新商品情報としてプレスリリースを配信する。しかし、商品情報のプレスリリースでは新商品紹介など、単体の商品紹介で終わってしまう。「情報ファイル」ではPRする商品情報だけでなく、同社の調査を元にした今の社会の状況、消費者の関心といった基本的なデータや何故この時期にこの話題を取り上げる必要があるのか?といった明確な理由、世の中にとってこの商品がいかに必要かというニーズについてまとめられている。

この「情報ファイル」の強みは、「このファイルさえあれば特集番組が組める」ほどの情報量にある。先に述べた社会的背景からどういった取材ができるのか?そして取材先はどこに行けばいいのかも、すぐに分かるようになっている。

そして何よりも「情報ファイル」は流通に対して有効なツールとなる。メーカーサイドは、この「情報ファイル」を持って流通との商談を行う。すなわち、今何故この商品が注目されるのか?どういった棚をつくっていけば消費者のニーズにマッチして、その需要を満たすことができるのか?を、客観的なデータを元にして説明ができる。これまでの流通向け資料は、メーカー側の情報が中心となっていたため、流通にとっては果たして本当にその商品が消費者に喜ばれるものなのかが見えなかった。こうした問題を解決する一つが「情報ファイル」である。

PRと広告の連携だけではなく、売上に直接つながる対流通施策までをカバーしていることは、大きなメリットではないだろうか。

またベビーフットの「情報ファイル」には、足に関する基本的な情報から、足裏の悩みに関する調査結果、フットケアグッズの現状、ドイツや欧州、日本のフットケア事情、足裏のオピニオンとして医師や専門家などの紹介などがまとめられている。例えば足裏の悩みに関する調査結果であれば、「皮膚のトラブル」「骨のトラブル」「爪のトラブル」など、ベビーフットの売り込みのためだけの資料であれば触れないような総合的な内容までまとめられている。皮膚のトラブルであれば角質の代謝のしくみや何故トラブルが起こるのか?といったことまでが詳しく書かれており、この情報ファイル一冊があれば特集記事が一本かけてしまうほどの印象を持った。こうした情報ファイルは実際に、インテグレートによってメディアに持ち込まれて、企画づくりに活用されることになる。

調査に話を戻す。テレビでの報道状況を調べていくと、夏前に足の話題が取り上げられることが多い、とわかった。これはミュールやサンダルを履く夏前に、足のケアに注目が集まるからだ。

こうして準備を整えPR活動を開始したところ、新聞でフットケアのトピックスとともにベビーフットが紹介され、そこからテレビに波及、同時に大手ポータルサイトやSNSのニュースなどネットへと話題が広がっていった。最終的には、雑誌も含めて多くのメディアでフットケアの話題とともにベビーフットが取り上げられることとなった。4月に新聞に紹介されたところでホームページのアクセスが2.5倍になり、数々のメディアに波及するうちに最終的には6倍にまでなったという。結果、全国のドラッグチェーンから注文が殺到。売れ行きは前年度の4倍にもなった。

■クライアント目線、メディア目線、流通目線、消費者目線を重ねあわせた情報を広げる

PRの成功について、ベビーフットを販売する株式会社リベルタ代表取締役の佐藤氏にお話を伺った。
「我々がインテグレートグループさんとの取り組みで勉強になったのは、雑誌社やメディアもまた読者や視聴者のニーズやウォンツに対して情報を企画提供しているということでした。ごく当たり前なことですが、改めてそれを感じました。雑誌社が必要としているコトは雑誌社のニーズでありウォンツ。読者が興味を持ってくれるコトという情報を企画するというのは、シンプルに考えればとても理にかなっています。そう言った意味で情報クリエイティブ及び情報ファイルの企画、制作、運用の可能性の広さや面白さを感じることができました。」

また、インテグレートのPRについて以下のような感想を聞くことができた。
「プレスリリースを作ってキャラバンをすることがPRだと思っている意識の低いPR会社が多すぎる中、クライアント目線、メディア目線、流通目線、消費者目線を重ね合わせながらクリエイティブし、情報を更に波紋のように広げつつ、波を大きくさせる。このテクニックにはシビレました。」

■もはや広告かPRかという議論では、売上にはつながらない

今回の取材を通して、藤田氏から様々な事例とそこで活用したノウハウをお聞きした。同社は結果を出すことでクライアントからの信頼と、リピート発注を集め、業績を伸ばしている。また、注目すべきは広告代理店との強力な信頼関係である。藤田氏が著書『99.9%成功するしかけ』(かんき出版)でも伝えている「マルチWin」、かかわるすべての人がWinになる仕事の考え方がまさにあらわれているのではないだろうか。

今回、残念ながら「情報ファイル」について記事で詳細の内容に触れたり、写真などで一部をお見せすることができなかったが、初期のリサーチから広告との連携、メディアを巻き込んだPR、売り場での棚提案、そして最後の売上にいたるまでの一連の流れがインテグレートと「情報ファイル」を中心に進んでいく。そして、そこにかかわる広告代理店においては、同社と連携することで、各メディアでの話題作りという土台をベースに高い広告効果を獲得して顧客満足を得ているだけでなく、売り場獲得などで広告主の売上にまで貢献ができるのである。インテグレートが、広告代理店から注目されているのも納得できる。

もはや、広告かPRかという議論ではない。いかにしてクライアントのビジネスを成功に導くか、そのためにどういった情報を作り出して消費者のニーズを満たし、社会の満足を得ていくか?という同社のような広い視点が必要ではないだろうか。
(杉山)