アンバサダー思考録 ~ソーシャルは”人”なり~

絶えず変化するソーシャルメディアに対して、企業やブランドは今までのコミュニケーション活動とどのように組み合わせるべきなのか、「顧客との価値関係」をどのように継続・発展させていくべきなのか、本連載では「アンバサダー」というキーワードで、ソーシャルメディアへの取り組みを「人軸」で考えます。

上田 怜史

第6回:スターバックスの「ありがとう」を集める取り組みその後と、成果を高める4つのポイント

 前回のコラム(第5回:スターバックスの「ありがとう」を集める取り組みと4つの効果)では、スターバックスが顧客の「ありがとう」や「おめでとう」を集める、14周年を迎えたある店舗の取り組みを紹介しました。

店舗を訪れた顧客に対して花びらをかたどったカードにお祝いのメッセージを書いてもらい、メッセージツリーを“おめでとう/ありがとうの花びら”で満開にしよう、という試みです。

 実際に呼びかけを始めた1週間後に店舗を訪れてみると、見事に満開になったメッセージの樹が店舗に現れ、来店者はコーヒーを待つ時間にメッセージを眺めているのが印象的でした。

 

  

 メッセージの花が咲くにつれ、来店する人達もイメージが湧きやすく、スタッフもメッセージをお願いしやすい雰囲気がつくられたのではと感じます。

さらに、この取り組みが素晴らしいと感じたのは、参加した顧客にフィードバックを行っていることです。

記念日から数日間、参加した来店者には手書きで御礼のメッセージカードを渡し、レジ脇に感謝を伝えるボードが用意されていました。

 そして、感謝を伝えるボードには、こんなメッセージが。

 

『これからも、いつまでも、みなさまの笑顔のために、私達はここにいます』

 

実はコーヒーが得意でない私が、ほぼ毎朝この店舗に通い続けている理由として、こういった語りたくなるエピソードは欠かせません。

 

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さて、今回の取り組みの結果、たくさんの「おめでとう」や「ありがとう」が貼り出されたメッセージツリーを見て、この素敵な取り組みの成果をもっと高める方法はないだろうか、と考えてみました。

|顧客の声を集める取り組みを発展させる4つのポイント|


ポイント1:大前提として「続ける」こと

 ひとつめは、「続ける」ということです。


 このような取り組みでは意外なことに、同じ“続ける”でも異なった取り組みになるケースが多く、結果的に続かない(続けられない)事が往々にしてあります。

これはファンとのリレーションを「新規獲得」として捉えてしまうことによるジレンマであり“続ける”ということは「既存顧客」向けの活性化で、ファンの周りにいる人達に伝えてもらうことが目的である、という明確な切り分けが必要です。

 新しいこと、斬新なことを常に提供することも大切ですが、ファンが望むことはもっとブランドや商品に近い体験や機会であることが多いので、同じフレームで少しずつ変えながら毎年(定期的に)行う“恒例行事化”するのは有効な発展型のひとつです。

ポイント2:参加してくれたファンを蓄積する

 来年の周年企画や今後も何か参加してもらうためにも、一度参加してくれた“実績のあるファン”を蓄積することが大切です。

 蓄積の方法は様々で、例えばメルマガ登録や利用者登録などが挙げられますが、重要なのはメルマガ会員という「プラットフォーム」ではなく、“ブランドの呼びかけに反応・貢献してくれる人”を見つけるという「アンバサダー」視点が重要になります。

 もしメルマガに登録してもらえても、その後呼びかけに反応しない人達がほとんどという「プラットフォーム」に対して呼びかけるよりも、アンバサダーメンバーとして登録してもらう窓口を用意して、“ブランドからの呼びかけに対して高い確率で反応・貢献してくれるアンバサダーのグループ”を作ることが有効です。

継続して蓄積・育成することで投資対効果の高いグループとして機能するでしょう。

ポイント3:デジタルの接点で募集し”アンバサダーの活動”をデータベース化する

 リアルだけでなく、自社webサイトや運営するソーシャルメディアのアカウント上でも募集することで、メッセージの「量」を増やすことができるだけでなく、募集していること自体を、より多くの人に伝えることができます。

 例えばメルマガ等の会員登録データベースが既にあれば、積極的に参加してくれるアンバサダーが多く含まれる可能性が高いので、是非呼びかけると良いでしょう。
(前回参加してくれた人が分かっていれば、募集開始したことを伝えることで、一定量の参加が期待できます。)

最近では人軸で価値を測るため、キャンペーンへの参加回数やブランドへの発言回数といった貢献度をポイント化して、より貢献してくれているアンバサダーを特定することが重要な指標になっています。

ポイント4:ネット上にファンの声を蓄積する

 メッセージを集約したページをネット上に設けることで、参加した結果や多くの人が支持している状況を可視化することができます。

この可視化されたクチコミを“いつ作るのか”というタイミングが重要です。

募集した結果集まったメッセージを掲載するのではなく、ネット上での募集時点でクチコミが既に集まっている状態が望ましく、成果を高めることに貢献するでしょう。

例えばリアル店舗で募集したメッセージをweb上にストックした状態で、デジタルの会員に告知することで、以下のような効果が考えられます。

 [安心・信頼]既に参加しているファンがたくさんいることが伝わる
 [参加サポート]どういったメッセージを書けば良いかのガイドとなる
 [姿勢理解・満足]自らの行為がどのように扱われ、貢献できるのかが分かる
 [拡散サポート]どんな内容の取り組みなのか分かりやすく、ユーザーがリンクで紹介しやすい
 

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 今回は4つほどポイントを紹介しましたが、他にも、顧客からの要望や改善リクエストを検討・フィードバックしたり、顧客の声自体をコンテンツ化して新入社員の教育システムの中に取り入れるなど活用できそうです。

 

|“何が”アンバサダーを動かすのか|

 

 取り組みを進める中で忘れてはいけないのは、既存やファンが喜んで参加したくなる、すすんで伝えたくなる機会を提供しているか、という点です。

では、ファンに推奨してもらおうと考えたときに必要なのは金銭報酬でしょうか、それとも豪華なインセンティブでしょうか?

 アンバサダーを活用したマーケティングに取り組んでいる米ズーベランス社の調査によると、アンバサダーが求めているのは「優れた商品/サービスの体験」や、「役に立ちたいという気持ち」であり、金銭的インセンティブや豪華なプレゼントは必要無いことが分かります。

 私が取り組んでいるアンバサダー向けのプログラムでも、アンバサダーの方々が喜ぶのは企業との接点であったり、発言する機会そのものであったりと、必ずしも金銭的なインセンティブが重要でないことが分かっています。

「でも、うちのブランドだと何を提供すれば良いのだろう?」とイメージが湧かない方もいらっしゃるかもしれません。

おそらく企業、ブランドやサービス、置かれている状態によっても異なるでしょう。
一方で、ファンが喜んでくれることは実はとてもシンプルなことなのではないかと私は考えています。

ファンの喜びとは『好意を持つ企業やブランドから個人として認識され、耳を傾けてくれること』ではないかと感じています。

まずは目の前の顧客が喜んで参加することが何なのか?を考え、小さく始めてみてはいかがでしょうか。

 

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