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スパイスボックス“デジタルエージェンシー進化論”

日本初のデジタルエージェンシーとして企業のデジタルコミュニケーションを総合プロデュースするスパイスボックスが、広告業界で活躍するプロフェッショナルをお招きして語る対談コラム。

株式会社スパイスボックス
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第2回-2:pixiv上谷隆宏氏、ファンタジスタ歌磨呂氏と語る “デジタルエージェンシー進化論”(後編)

第2回目の後編として、引き続きpixiv(ピクシブ)の開発者である上谷隆宏氏(ハンドルネーム「馬骨」)と、ファンタジスタ歌磨呂氏をゲストにお迎えし、spiceboxクリエイティブディレクター神谷を交えた対談形式でお届けします。

 

表現する場を限定しない。360°に向けた作品づくり

 

神谷 pixivもアジアを中心に海外で人気になってきていますが、COOL JAPAN的な流れもあって、日本のサブカルが海外へ輸出されるというケースが顕著になっています。歌磨呂さんがYoutubeなどに公開されている作品への海外からのアクセスも増えていますか?

 

歌磨呂 livetune*1のミュージックビデオは多かったですね。feat. 初音ミクのMV「Tell Your World」とか、「Transfer」とか。僕の作品作りの根底には360°に対して向けた作品にしたいという想いがあります。グローバルなものとして作品作りに取り組みたいんですね。そもそも「海外」って言葉も好きじゃなくて、海外、国内関係なく世界に向けて作品をつくりたいって思うようになって。クリエイティブを見せる場所を限定する必要なんて無いじゃないですか。マレーシアのアートカンファレンス行った時にすごくそれを感じて。色々な国の人が来ていたのですが、だれも作品作りに対して「海外」なんて言葉は使っていなかったんですよね。ああ、みんな360°に向けてクリエイションしてるんだなあって感銘を受けたんです。それまでも僕の中で自分の場所だからこそできるものを大切にしていたのですが、その想いもドンピシャで繋がって。僕がここにいるからこそ、できることとか、ここにいなきゃ分からなかったことを、強く押し出そうと意識を日々心がけています。アニメーションだったりモーショングラフィックだったり、いろんな要素がドッキングしてくる感じって日本人的だと想うんですよね。初音ミクのPVもそうですけど、外国人のコメントはけっこう多くいただけました。このあいだの「Transfer」のMVで言うと、予算の問題もあって素材をとにかくループするというアイデアが生まれたんですけど、きちんと日本人の作品として世に出したかったので、軸のアニメーションはできるだけクオリティの高いセルアニメにしたかったんですね。で、背景が全く違うディレクションで連続してくると「えー!?」みたいな驚きに繋がるんですよね。それは日本にしかできないんじゃないかなって思ったんです。やっぱりオリジナルの文化として萌え要素やアニメの空気感は日本にしか出せない感じがしています。

 

*1 livetune(ライブチューン)…初音ミクのVOCALOID楽曲動画で一躍話題となった同人音楽サークル。2011年にGoogle ChromeのCM曲「Tell Your World」を発表。

 

神谷 「Transfer」のアニメーションは誰がつくってたんでしたっけ?クオリティすごく高かったですよね。

 

ファンタジスタ歌磨呂氏

 

歌磨呂 30人くらいのクリエイターさんに参加してもらっています。あれも、たくさんリファレンス出して、シーンによってトライアンドエラーを繰り返したりして、こういう感じでお願いしますと、ディレクションしましたね。

 

神谷 修正するにしてもボリュームすごいですよね。

 

歌磨呂 キャラクターデザインもけっこう作り込みましたね。たくさん修正が入ったりと、とても大変でしたね。

 

 

神谷 動画を作る時に、いろんな人とコラボをしているじゃないですか。外から見ると、ともて大変だと思うんですか、いかがですか?

 

歌磨呂 相当大変ですね。交通整理というか、クライアントを口説くより、力を使っているという感じがします。初音ミクのMVの時もめちゃくちゃ頑張りました。映像ディレクターのTAKCOM*2とわかむらP*3がコラボするなんて普通に考えられないじゃないですか。初音ミクがニコニコ動画で流行った時に、MMD(MikuMikuDance)というアプリケーションが生まれて、アイドルマスターやMMDでニコニコ動画を賑わわせていたわかむらPがいて、彼の作った映像を軸にリミックスしていくっていう。ちゃんとオリジナルのものを大切にしながらそこからひろがるような作品にしたかったんですよね。TAKCOMの再構築が半端じゃなかったです。3Dデータのやりとりとかもめちゃくちゃ苦労したんですよね。僕はとにかく軸がぶれないように交通整理とディレクションに徹しました。TAKCOMはモーショングラフィックで海外で人気、わかむらPはニコ動で人気。どちらも超ストイックでオタク気質を持っている職人のような心意気を持つアーティストなんですよね。全然一緒の土俵じゃないんだけど、大事なところがきちんと繋がればいいものができるんです。日本人的なマインドが繋がるというか。TAKCOMが世界のモーショングラフィックの世界で話題になっているのは、日本人的な緻密で繊細なセンスが光ってるからだと思うんです。わかむらPはアイドルを愛しててそれがクリエイティブ精神に直結している。もうこんな贅沢なセンス、他にないと思ったんですよね。これが一緒になったときに、何か日本人でしかできない化学反応のような面白いものができるって、確信したんです。わかむらP自身は、アイドルカルチャーをちゃんと知っていて、客観的な目を持っている。MMDでミク映像をつくるんだけど、きちんとMMDの盛り上がってる現場を大事にしながらものづくりをしてるんですよね。余白を大事にしながら作品づくりに望んでいるんですね。わかむらPの作品をみてMMDを使って作品を作りたくなる人がいっぱい出てくるんです。シーンを大事にしながら盛り上げる。そういう素敵な意識を持って作品づくりを行っていたんですよね。オタク気質の人間の素晴らしいところって、そういうところだと思うんです。作品が一人歩きすることを前提にものづくりをするというか。

 

*2 TAKCOM…映像、アート、モーショングラフィックスなどを手掛ける映像ディレクター。国内外から高い評価を得て、数十ヶ国のアートフェスティバルやギャラリーへの招待も多数ある。

 

*3 わかむらP…MV、CMなどのCG制作、アートディレクションを行う映像ディレクター。ニコニコ動画やYoutubeなどの動画サイトでの活動を中心に、TV番組、Webの映像制作など幅広い活動で人気を得ている。

 

神谷 みんなが参加できる場を作っていく、シーンを作っていくっていうクリエイティブのあり方は、これまでなかったですよね。


神谷憲司

 

歌磨呂 シーンを大事にするから、そのなかで何ができるかっていうのを考えている。僕はその姿勢に、すごく感動して、俺も初音ミクがジャスティン・ビーバー、レディ・ガガの次に、完全日本オリジナルでGoogle Chromeのキャラクターになって、自分の役割に気付いた感覚があります。だから俺はデザインをやってるんだと。

 

神谷 今までクリエイターは見て満足してもらうことを追求していたのに、他人の作りたい気持ちを刺激するっていうのはすごく新しいですよね。

 

 

歌磨呂 その作品を発表することで、何が起こるかっていうのを、すごく客観的に見ながら作っているという姿勢にすごく感銘を受けたんです。「うおお!」っていうくらい(笑)。

 

神谷 ご本人たちに、シーンを作っているという感覚はあるんでしょうか?

 

歌磨呂 ニコニコ動画に作品をアップするという感覚と同じだと思うんですね。みんなでワイワイと楽しみたいからやっているんですよね。クリエイティブのあり方として、超正しい姿というか、僕なんかお題を出されて、それに応えて、クオリティ高いものを追求して…。それってすごい嘘くさいとか思っちゃって。

 

神谷 pixivさんの「お絵描き楽しす」という理念にも通じますよね。自分が描いて楽しむだけじゃなくて、みんなも楽しませたいというのがあって、ゆえに絵を描いているというか。クリエーションがコミュニケーションになっているというのは共通していますよね。

 

 

良いか悪いかでは判断できない、“心地良さ”に目を向ける

 

 

歌磨呂 音楽のライブとかもそうだと思うんですが、みんなでここにいるという共有感をインターネットで手軽に味わえるようになって、ニコニコ動画やpixivはまさに時代に必要だったっていう。

僕は広告をやっていた時期もあって、広告だとゴールを最初に決めちゃうというか、クオリティの高い作り込んだカンプつくって提案して、という作業に窮屈さを感じていました。そんなの全然面白くないじゃんというのがあったから、pixivのように自然発火のように巻き起こったものに関しての感動があった。「誰も言ってないのに盛り上がってる!」みたいな(笑)。そっちのほうが絶対感動するんですよね。合コンで知り合う女の子より、街で偶然会う女の子の方がアツいみたいな(笑)。

 

神谷 そこで感動するのがすごいですよね。プロの人だと、pixivに一般の人がアップした絵を見て、ぬるいと思う人もいると思うんですけど、そこにコミュニケーションが起こっていることに、感動するっていう視点はすごいですよ。

 

かつて、オタクといわれていたものがオープンになってきていますよね。いわゆるオタクイベントにも普通の人が来ているんですか? 

上谷隆宏氏

 

上谷 おしゃれなオタクも増えてきましたね。ちゃんとした格好をしている人は増えました。

 

 歌磨呂 僕も大学卒業した時に初めてコミケにいったのですが、最近の方がファッションに気を使っている人がたくさん来ている印象はありますね。若い世代ではmograとかアニソンもおしゃれですよね。

 きちんとディレクションすれば、良いものはできる。でも、判断基準が良いか悪いかに重点がおかれすぎてしまう。でも人の心にずっと残ってるものって、良いか悪いかだけじゃなくて、プラスαっていうか…、余白があるんですよね。うまく言えないんですけど、自然に巻き起こっていることってその要素がたくさんあるなと。たとえば、季節の匂いもそうですよね。秋の風のにおいを感じた瞬間、考えてもいないのに過去の情景がフラッシュバックしたりするじゃないですか。良いか悪いか、ありか無しか、という判断基準ではなくて唐突に訪れて、しかもなんだか心地良いものなんですよね。僕はpixivを初めて見た時にその匂いを感じたんですよね。だから、僕もそんなムーブメントをつくりたい!と、あまりガチガチに考えすぎて物事を決めすぎないで慎重に進めていく、ということを心掛けよるようになりました。初音ミクの時も場所をきちんとつくって、あとはじっくり固めていくって感じで。常に念頭にそのことを考えていると、自分が想像したもの以上のものに仕上がってくる。匂いが心地よければ、それは人間にとって良いものだろうと思います。ずっとアートが人の中で息づいていく事もそういうことかもしれないですね。

 

神谷 ネットで流行るものもそんな感覚ですよね。ネット上でシェアするとか、いいね!押すとか、割と直感ですよね。瞬間的に良いか悪いかを判断する。ネットの普及で物事がスピーディーになってきたときに、直感的に気持ち良いかどうかの判断が大事になってきている気がします。

 

pixivが、最初は、自分の好きなイラストレーターに集まって欲しいというところから、「お絵描き楽しす」という、より直感的で根源的なキャッチフレーズに変わっていったっていうのにもリンクするような気がしますね。

現代は、歌磨呂さんの言う匂い、直感がますます大切になっている時代と言えるかもしれません。それでは、本日はありがとうございました。

 

 

 

※対談で紹介した動画

・初音ミクのMV「Tell Your World」

 

・「Transfer」

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