【特集】商店街のうなぎ屋の蒲焼スペースは最高のサイネージ ~ヒマナイヌ 川井拓也氏が広告視点で見るUSTREAMの可能性~

パソコンやスマートフォン、webカメラさえあれば、インターネットを通じて誰もが無料で動画をライブ配信できるUSTREAMをご存知だろうか。今、このUSTREAMの広告・プロモーションへの活用が業界内で注目されつつある。大手自動車メーカーや飲料メーカーのキャンペーンで、一部USTREAM使った事例も見られようになってきたが、企業におけるUSTREAMの活用にはどのような可能性があるのか。
一般向けにUSTREAMの使い方講座を実施するほか、企業向けにはUSTREAMを活用したキャンペーンやプランの実施案を作成、『USTREAM 世界を変えたネット生中継』(ソフトバンク新書)などの著書も持つ株式会社ヒマナイヌ代表取締役 川井拓也氏にお話を伺った。


株式会社ヒマナイヌ代表取締役 川井拓也氏

■単純な中継から、ソーシャルストリームとの親和性をより活用する企画へ
“ヒマナイヌのカワイ”さんといえば、Twitterで1万4000人以上のフォロワーを抱える人気者。USTREAMでは、ほぼ毎晩、なにかしらの中継を行っているのでご存知の方もいるかもしれない。しかし、同氏が代表を務める株式会社ヒマナイヌが広告のプランニングを行っていることは意外に知られていない。同社は、広告プランナー出身の同氏と編集者の猪蔵氏の二人が立ち上げたプランニングカンパニー。映像系の番組も、web も、携帯サイトもすべて手がけるが、ソーシャルメディアと連動したプランニングを得意とし、最近ではTwitterやUSTREAMを活用したキャンペーンを多く手がけている。
「広告の仕事は完全に黒子なので“ソーシャル鍋(※1)”などの中継で我々が表に出ているのは完全にパーソナルな遊びの部分です。ただし、そうした遊びの中継を通して、企業としてやるのであればどのようなクオリティを担保しなければいけないのか、ネットならではキャンペーンでどのような距離感が出せるのかということを常に検証して、広告の仕事に活かすようにしています」(川井氏)
今現在、同社が手がけている仕事の多くは、新商品発表会のようにすでに進行している企画に対してUSTREAMの中継をプラスオンするというもの。しかし、今後は単なる中継から一歩進んで、USTREAMが持つライブ感やソーシャルストリームとの親和性をより活用していくような企画が増えてくるだろうと、同氏は言う。
「USTREAMやTwitterという回路を使って、企業としてもう少し新しい伝え方ができないか、広告として結果物を見せるだけではなくて、そのプロセスであるとか、共感を広められるようなものができないかという相談が増えています。ただやはり、マスと比べるとアプローチする数が一桁も二桁も違うので、それがすぐさまお金になるというものではありません。つまり、100人のセミナーを開催したときに、USTREAMを活用することで例えば300人が視聴したとしたら、3倍の人たちがそのセミナーを共有できる。そこに、面白さを感じることができる企業のマーケッターが注目しているというのが今の状況です」(川井氏)

※1住所を公開しながら、空の鍋を映し、視聴者に鍋の具材を持って集まってくれるように呼びかけた中継。この中継により15名もの視聴者が集まり、初対面同士で約2時間に渡り鍋を楽しんだ。ソーシャル鍋はシリーズ化し、ソーシャルカレー、ソーシャルポトフと続き、全3回の中継で40人がリアルに参加し、2000人以上が中継を楽しんだ。

■人を集められるかどうかは、視聴者のコメントにかかっている
USTREAMは、テレビのように自分から番組を探して見に行くような種類のメディアではない。つまり、「何時何分から中継します」という事前告知で視聴者を集めるのではなく、その中継を見ている人がTwitterで感想をつぶやき、フォロワーがそのつぶやきをみて興味を持てばアクセスするし、興味がわかなければスルーされてしまう。
「Twitterの利用人口が増えているとは言ってもフォローしている人が少ない場合には、USTREAMの情報が全く入ってこない人もいるでしょう。そう考えると、広告的には魅力が薄いかもしれません。ただし、非常に早いスピードでソーシャルストリームが流れていくような番組に関しては、中継を始めたと同時に告知したにも関わらず、どんどん視聴者が増えていって、最終的には何千人、何万人にもなるという可能性も秘めています」(川井氏)
ソーシャルストリームがどんどん流れていくような番組を作るためには、“突っ込みどころのある映像”が必要と、同氏は言う。
「新しい視聴者を呼び込むためには、なるべく多くの違うTwitterアカウントを持った人にソーシャルストリームでコメントしてもらわなければなりません。そのコメントの数がバイラルの元となっていくので、多くの人が突っ込まざるを得ないという状況を作ることが必要です。僕が感心したのは、ライターの三上洋氏が中継していた「SIMLOCK Japan2」という討論番組です。ドワンゴの夏野氏やソフトバンクモバイルの松本副社長など、何人かが携帯電話のSIMロック解除問題について、それはもう真剣に、喧々諤々の議論をしているのです。だけど、そこに時々メイドの格好をした女の子がお茶を持ってフレームインしてくるわけです。見ているほうは『なんで、メイド?』となるじゃないですか。『メイド来たー!』とか『すごい水掛け論だから、メイドそこで水をこぼす』など、突っ込みどころ満載なわけです。企業の中継は、だいたいが構成台本どおりにやるわけですが、こういう遊びというかいたずらの部分がUSTREAMには必要です。『SIMロック~』というコメントがきても見たくないけれど、『超、メイド』というコメントなら見てみたくなるじゃないですか(笑)」(川井氏)

■USTREAMは商品やサービス、会社そのものの魅力を伝えるためのデジタルサイネージ
Twitterブームが一段落した今、広告業界には、次はUstreamだという空気がある。しかし、同氏はUSTREAMは商品やサービスを“売るための広告”ではなく、いち回路だと言う。
「“売るための広告”となると、メディアでないとなかなか認知されにくい。Twitterもメディアかというと、やはりメディアではなくてメールアドレスやファクシミリに近いと思うのです。電話やメールアドレス、ファクシミリというのは会社であれば普通にもっていますよね。そこに最近では、Twitterアカウントが追加されている。Twitterの次にきているUSTREAMというのは、ライブカメラのウィンドウです。電話で何か儲かりますかといったときに、いや電話がないと連絡がとれないのでという話と一緒で、その会社や商品、サービスのライブカメラを開けておくことによって、ユーザーがいつもで覗くことができるいち回路。だから、企業においては、イベントごとにパカっと開けているだけではあまり意味がなくて、常にそこを開けておいてプロセスを見せるというような使い方になっていくだろうと思います。商店街のそば屋には、そば打ちのスペースがありますよね。うなぎ屋には蒲焼のスペース。あれは、商店街を行く人々を匂いとビジュアルで誘うサイネージじゃないですか。そこにカメラとUSTREAMを用意すれば、匂いまでは伝わらないけれども、ビジュアルを全国に伝えることができる。そのくらいのものだと認識すれば、商品やサービス、会社そのものの魅力を伝えるために、何を見せたらいいのかはおのずとわかってくるのではないでしょうか」(川井氏)

■USTREAMにおけるプロセスキャスティングは広告を変えるか?
同士が言うように、USTREAMを使って商品やサービスが出来上がるまでのプロセスを共感できるドキュメンタリーとして伝えていこうとする試みは、今後確実に増えていくだろう。例えば、漫画家がペン入れをしている作業を淡々とストリーミングして、これは~コミック○月号に掲載されますとか、ミュージシャンが録音をしている様子をストリーミングして、完成されたものはiTunes Storeで購入できますというようなプロセスキャスティングはすでに行われている。つまり、DVDにはメイキングなどの特典映像がついているが、メイキングを予め見てから商品を購入するという逆転現象が、すでに始まっている。より多くの商品・サービスで、このようなプロセスキャスティングが行われるようになったとき、広告はどう変わるのか、あるいは変わらないのか。今はまだ答えはなく、これからさまざまな試みが行われ評価されていくのだろう。いずれにしても、多くの企業がUSTREAMという新しいテクノロジーに注目する今、広告に関わる者もその価値と可能性を知っておく必要があるだろう。(宮崎規江/編集部)

■ソーシャルメディア活用の幅がさらに拡大、知らないでは済まない時代に
 今回のインタビューでは、もしかしたら多くの方があまり馴染みのないUSTREAMを取り上げた。動画配信サイトであり、Twitterと連動して威力を発揮するソーシャルメディアである。
「うちはTwitterへの取り組みもこれからが本番だから・・・」という企業や、広告代理店も多いかもしれない。Twitterへの取り組みや、Twitterを絡めたプロモーション提案もまだまだこれからなのに、それに加えて動画配信なんて・・・と思っていたとしたら、もしかしたら遅すぎるかも知れない。
本インタビューにある通りUSTREAMは単なる動画配信ではなく、御社のソーシャルメディアへの取り組みの幅を、今すぐ簡単に広げてくれる、有力なツールになる。実際に、USTREAMのウェブサイトではもう、取り組みの素早い広告主が提供する番組が配信され、Twitter上で大いに盛り上がっている。

広告枠を売る、という観点から考えるとソーシャルメディアはお金に直結しない。しかし、消費者を巻き込んだプロモーション企画を考えることのできる企業、あるいは広告マンは、むしろ既にソーシャルメディアをプロモーションの一部に組み込んで活用していないだろうか。

今回のインタビューに続き、広告ニュースではヒマナイヌ川井氏によるセミナーを企画した。Twitter含め、これからソーシャルメディアに触れる人や、企業としてソーシャルメディアに取り組み始めた方にも分かりやすい、広告業界視点での内容をお届けしたいと思い、講座内容を組んだ。
今回のインタビュー記事に興味を持たれた方は、是非ご参加頂きたい。
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