【特集】「Twitterの未来に大いなる期待はありません」~6500人以上のフォロワーを抱えるフジヤカメラ店の場合~

「夕立なう」「夏だぜー♪」「今日のスタッフはみんな健康診断で血を抜かれていますので 生気がないです あしからず」――くだけた口調でおよそ業務とは関係なさそうな内容をつぶやくのは、中野駅北口に店舗を展開する老舗「フジヤカメラ店」。同社がTwitterでつぶやき始めたのは2009年7月。今でこそ、Twitterに取り組む企業は珍しくないが、当時はTwitterアカウントを持つ企業は数えられる程度であった。当初はお店の常連さんがフォローするばかりだったが、親しみのあるくだけた雰囲気がウケて、今では6500人以上ものフォロワーを抱えるまでに成長した。
Twitter上の自己紹介にもあるように「長年の信頼と実績を誇る、新品・中古カメラの買取・販売専門店」がTwitterを始めた理由は何だったのか? また、Twitterを始める前と後では何が変わり、何が変わらないのか? 株式会社フジヤカメラ店 営業部販売課 課長Web推進リーダー 五十嵐慎市氏と、「中の人」としてつぶやきを担当する同社 営業部販売課 野林洋光氏にお話を伺った。


フジヤカメラ店のTwitterアカウント @fujiyacamera

■新しいものを恐れず、積極的に取り入れていく社風
同社の創業は1938年(昭和13年)。前身である「大月太陽堂」は現像を中心に写真材料を商っていたが、しだいに舶来カメラ等の取り扱いが増えるようになり、現在のようなカメラ販売が主力の店へと姿を変えていく。クレジットが「月賦」と呼ばれていた時代にはすでに分割クレジット販売を始めており、通信販売をスタートしたのは今から35年以上も前の1974年(昭和49年)。同社は新しい仕組みや考え方を積極的に取り入れることで成長してきた会社なのだ。
こうした背景があったからこそ、登場間もないTwitterにもいち早く取り組むことができたのかもしれない。もちろん、現場の声が経営者層に届きやすい社風・規模の会社であったことも理由として大きいだろう。事実、Twitterの導入に関して社内的な調整に手間取ることはなく、五十嵐氏が「Twitterの販促利用」を営業会議で提案すると、その場ですぐにOKが出たという。
「口コミを広げるツールとして注目していたところへ、同業他社がまもなくTwitterを始めるという情報が入ってきました。こうしたツールは話題になった時点で終わり、という思いがあったので、他社に先駆けて取り組むことに意味がありました」(五十嵐氏)

■Twitterの効果は、口コミの視覚化とマスメディアへの波及
五十嵐氏と野林氏が所属する営業部販売課は、同社のネット通販サイトの運営を担当している。入荷情報などの更新作業が楽に行えそうだというのがTwitterに着目したきっかけだった。同時に、ネット上に口コミを広げられることが魅力だったという。
「ネットの世界にはSEOというものがありますが、リアルの世界で弊社が長年培ってきたものは口コミです。検索サイトやSEOに頼らない販促、つまりは口コミをネット上に展開したいと考えたときに、更新速度や話題性という点でTwitterは優れていると思いました」(五十嵐氏)
実際に運営を始めてみると、口コミの広がりよりも、口コミを視覚的に捉えられるようになった効果が大きかったという。以前は、外で広がっている口コミの内容が店舗にまで届くことはなかった。しかし、Twitterを始めてみるとフォロワーのリアクションが文字として見えるので、個々の商品を取り巻く状況がどういう流れなのかがわかるようになったというのだ。
「以前は、何故コレが売れるの?という物も多かったのですが、そうした何故?が少なくなりました」(野林氏)
また、他社に先駆けていち早く取り組んだ効果は、さらに大きかった。“話題のTwitterでつぶやく企業”として、テレビや雑誌など多くのメディアで取り上げられる機会が増えたのだ。メディアへの露出が増えるとともに「フジヤカメラ店」の認知度も上がっていく。
「テレビが放映された直後には、フォロワーの数がものすごく増えました。そのほとんどが弊社を知らない人たちです。弊社の中には『フジヤカメラを知らないカメラマニアなんているはずがない』という奢りがありましたが、Twitterに『フジヤカメラさん、知りませんでした』と書かれてしまうと、皆へこみながらも、まだまだだったと気づくことができたのです」(五十嵐氏)

■ユーザー本位でつぶやかなければ、成功はない
一方で、当初の目的のひとつであった入荷情報の更新については、運営開始直後に見直すことになる。いざ始めてみると、商品情報についてはメーカーサイトに詳しいので、「予約受付開始」や「特価」といったつぶやきばかりがタイムライン上に並んでいったのだ。
「商売っ気たっぷりのつぶやきは非常に嫌らしいし、フォローする側にしてみれば楽しくもないし、迷惑ですらありますよね。ならば、もっとくだけた感じで、普段二人で話している馬鹿話をそのまま書いちゃえという今のスタイルに切り替えました」(五十嵐氏)
この方針転換が当たり、約2ヶ月ほどでフォロワーが6000人を超えていく。現在は、フォロワーからの要望に応えるかたちで、くだけた口調が楽しい本体アカウントとは別に、中古情報のみ、実際に売れている商品の情報のみを流すアカウントもそれぞれ立ち上げ、運営している。
「Twitterは生真面目にやっても意味がない」というのが、二人の一致した意見だ。
「自分がお客の立場だったら、あまり真面目なことばかりつぶやかれても見たくないですよね。大きな会社になればなるほど、企業理念に沿ってという方向にいきがちかと思うのですが、Twitterは常にユーザーの視点でつぶやかないと面白がってもらえない。フォローしてくれる人がいないと取り組む意味がないですから」(野林氏)

■サイトへのアクセスは4割増。でも、今のTwitterに集客力はない
いち早くTwitterに取り組み、フォロワーを増やすことにも成功した同社だが、売り上げが飛躍的に伸びるという効果は、残念ながらなかった。
「売り上げは、市況の状況や新製品が出るタイミングに左右されるので、Twitterとの関連を見るのが難しいのです。ただ、サイトへのアクセス数は4割ほど伸びています。しかしこれもTwitter単独による効果ではなく、Twitterを始めたことでメディアに取り上げられたという部分のほうが大きい。純粋にTwitter を経由してサイトへというのは全体の7%です。この数字は『カカクコム』の掲示板に弊社の口コミが上がった場合の誘引数とほぼ同じです。ご存知のように『カカクコム』は月に2億PV以上を叩き出すサイトですから、そう考えると決して低い数字ではないのですが…。ただ、今はこれだけ企業アカウントが乱立していますから、もうTwitterに集客力はないと思います。弊社の場合は話題性を追及したという部分が大きいので、Twitterの未来に大いなる期待はありません」(五十嵐氏)
同社は今後、今のフォロワーとの対話を楽しみつつ、Twitterをサイト内のコンテンツのひとつとして利用していく計画だ。

■企業にとってのTwitterは「つぶやくツールではなく、聞くツール」
記事で上手く伝えられないのが申し訳ないのだが、五十嵐氏、野林氏はともにかなりくだけたお人柄だ。ご本人たちの言葉を借りてしまうと「ゆるゆる」。同社のTwitterがかなり早い段階でフォロワーを増やすことに成功したのは、二人の間に流れる「ゆるゆる」の空気感が、つぶやきを通して読み手に伝わったからに他ならない。
Twitterはソーシャルメディアであるから、それが企業アカウントであっても、つぶやきを担当する「中の人」のパーソナリティに左右されてしまう。逆に言えば、パーソナリティが感じられないつぶやきでは魅力が薄く、フォローしてもらえない。フォローしてもらえなければ、顧客(見込み顧客)との対話はおろか、声を拾うこともできない。
この1年、日本企業の多くがTwitterに取り組むことで見えてきたのは「Twitterだけで売り上げを伸ばすことはできない」という事実だ。しかし、消費者の生の声を直接、視覚的に、しかもリアルタイムで捉えられるツールはこれまで存在しなかったし、それができるようになったことのメリットは大きかった。企業にとってのTwitterの本質は「つぶやくツールではなく、聞くツール」。あまりにも多くのメディアが、一斉にTwitterを取り上げたために、本質が見えにくくなっていた感があるが、各社の取り組みのなかで徐々にこうした声も聞かれるようになっている。(宮崎規江/編集部)