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ほんのちょっと未来の広告を考えてみる

ちょっと先に見えている広告の未来。そのための研究を行っているマイクロアド未来広告研究所がお送りする、広告テクノロジーとデータ利用の話。(全6回)

中川 斉
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第4回:データで見る、カンヌライオンズ

 

 世界中の広告マンに注目されるカンヌライオンズ(正式名称:カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル)、今年はメルボルン鉄道の「DUMB WAYS TO DIE(おバカな死に方)」が5部門でグランプリ、18のゴールド、3つのシルバー、2つのブロンズという圧倒的な存在感を見せつけました。中毒性のある音楽やアニメ、メディア展開など、アイデアと作りこみはまさに”一流”を感じさせられます。

 カンヌライオンズのアワードは、クリエイティブを競うものではありますが、キレイで、アイデアが素晴らしくて、おぉっ!で、へぇーなだけではなく、「クライアントの課題をちゃんと解決したのか」、ということも当然重要な要素です。
 応募側もそれを理解しているので、「どれだけ解決したか」の定量データを、説得性を高めるファクトとして応募資料に入れ込んであるものが多くなっています。オンラインマーケティングでよく使われるCPAやCPCなんてものが使えれば話は早いのですが、扱っている課題はそれでは済まないものがほとんどで、測りにくいものを数値化しないといけませんし、賞をとるためには、より効果があったように見せることも、そして納得感も必要です。
 今回はその数値データに着目し、キャンペーンの定量評価を世界の一流クリエイターがどう考え、どう形にしているかのアイデアを学んでみたいと思います。

 まずは冒頭にご紹介した、「DUMB WAYS TO DIE」をみてみましょう。

DUMB WAYS TO DIEキャンペーン紹介ビデオ

 

 "キモカワ”な、ゆるキャラ(?)と耳に残る軽快な音楽が中心のキャンペーンですが、単なる
”キャラもの”、”歌もの”に留まらず、その計算された中毒性と拡散性は敬服に値するものがあります。結果のファクトデータをみてましょう。

 ・YouTubeで5千万回再生
 ・200以上のカバーバージョン、替え歌など
 ・2週間で700回以上メディアに取り上げられ、5千万ドル相当の価値
 ・PRキャンペーン用に作られた歌なのに、iTunesで売られ、28の国でチャートイン
 ・鉄道内での事故が21%減った ←本来の最終目的

 キャンペーン目的はメルボルン鉄道での事故防止啓蒙活動なので、事故が減った事実に加え、メルボルン市民へ効率よくリーチし、効率よく内容を伝えたという指標があればそれが最も効果的な指標のように思えます。しかしそうではなく、YouTubeやiTunesの数をあえて出しているのは、「いままでのやり方ではだれも振り向いてくれない。オーストラリア全国、もしくは世界で話題になることで、逆に市民の目に留まる」そんな考え方をしたのではないかと推測されます(関係者に直接聞いたのではないので真偽のほどはわかりません)。ゲーム、カラオケ、ソーシャルメディア対応など、拡散しやすいネタを提供し、みんなにいじってもらうことに成功。その結果を数字(カバーバージョンの数)にして見せているのもなかなかのものですね。

 

 カンヌライオンズで、最近強くなってきているといわれる要素の一つがソーシャルグッド(世のため、人のため)です。DUMB WAYS TO DIEはソーシャルグッドそのものですが、以下の2つは今回のカンヌライオンズ受賞作の中でもソーシャルグッド要素の強いものです。

IMMORTAL FANSキャンペーン紹介ビデオ


 ブラジルのサッカーチーム”Recife”のファンに向けて、臓器提供カードの登録を呼びかけたもの。「あなたが死んでも、あなたの臓器提供先でまた応援できる。死んでもファンでいられる」という、強烈なメッセージ。このビデオもなかなか魂を揺さぶられるものがありますね。このキャンペーンでの結果数値はずばり、


 ・51,000人のドナーカード登録(前年比54%増)

 

 アイデアとメッセージがかなり強烈なのと、一つのサッカーチームのファンという狭いポテンシャルターゲットへの深いコミュニケーションという性質のため、「ビデオに出てくるキャラの濃いファンの人たち+実際に臓器提供を受けた人のインタビューという定性的な情報と数字がひとつあれば、このキャンペーンに意義は十分感じられるのでは」という作者のメッセージなのでしょう。キャンペーン紹介ビデオで泣けたのは初めてです(個人的感想です)。

 

BRIDGE OF LIFEキャンペーン紹介ビデオ

 

 自殺の名所になっているソウルの橋に心温まるメッセージや写真を張り、自殺を思いとどまらせようとする仕掛けをサムスン生命保険が作ったもの。さらに人が近づくとライトがつくといったギミックをつけることで話題性を高め、観光地化したとのこと。「”命に関わる問題に関して我々も貢献している”という企業姿勢を伝えることでブランドイメージを高めること」がクライアントの目的と考えられるので、IMMORTAL FANSよりも経済活動要素の強い施策だと思われます。しかし、ソーシャルグッドがカンヌで評価されていることを鑑みて、企業イメージ要素の変化などは表に出さず、


 ・仕掛け施工前にくらべ自殺者が77%になった(2割以上減った)

 

というメジャメントで勝負しています。施策の内容はとても素晴らしく、社会的な意義も大きいと思いますが、真の目的とは違う指標な気もするので、個人的には指標の出し方、定量的な評価のポイントに若干違和感があります。

 

 フランスの葬儀保険会社DELAのキャンペーンは、こちらも心が揺さぶられるいいキャンペーンですが、ブランディングに貢献したというファクトを直接的に表記しています。


 ・ブランドランキングがTOP10入り
 ・資本が50%上昇

Why wait until it's too late?キャンペーン紹介ビデオ

 

 

 

受賞した多くのキャンペーンは、ソーシャルメディアでの拡散の程度をファクトデータとしてあげています。

 ユニリーバのReal Beauty Sketches
  ・YouTube 46.4 百万再生
  ・ブランド関連tweet 140倍
  ・Twitterでの推定インプレッション 2億
  ・Facebookファン33万
  ・Facebook でのシェア数 約2百万

 OREOのDaily Twist
  ・re-tweetが5倍
  ・Facebookシェアが280%増
  ・Facebookいいね100万以上
  ・Facebookでのポストに対し、平均1万いいね
  ・2.3億のアーンドメディアでのインプレッション

 上記の2つのキャンペーンはアイデアのつまった、素敵なキャンペーンですが、数字の使い方についてはうまいとは言えません。すごい数字ではありますが、比較対象が明確ではないので、論理的に評価することが難しいです。数字の意義がピンと来ないのです。

 その点において、NIKEのFIND YOUR GREATNESSキャンペーンは、対競合の構図がはっきりしているため、ファクトの見せ方としては成功しているように感じます。NIKEは2012年ロンドンオリンピックでは公式スポンサーではなく、某競合企業が公式スポンサーになっていました。その競合企業との数値比較をすることで、キャンペーンの成功を明確に示したのです。
 さらに、気持ちいいくらい明快なのが、ドイツのスーパーマーケットAUCHANのサステナビリティレポート。広告ではなく、企業のアニュアルレポートの一部、サステナビリティレポートをスマートフォンで見れるようにしたものですが、そもそもサステナビリティについて語るために分厚い紙の印刷物を使ってもいいのか?という疑問に答えたものです。ただスマホ対応ページを作ったのではなく、スーパーらしくレシートにバーコードを印刷したものを配って、スキャンして内容を見れるようにしています。その結果、

 ・前年に比べてレポートを見る人が150万人増
 ・しかも、紙を99.73%削減 

「ていうか、最低限0.27%だけ使っちゃいました、テヘぺろ」的なそんないい数字の使い方ですね。しかも小数点以下2桁使うことで、”ちゃんと科学的”なイメージも感じられます。兎にも角にも、大きな仕掛けではなく、ちょっとしたデザインが課題を解決する良い例だと思います。

The Selfscan Reportキャンペーン紹介ビデオ

 

 カンヌライオンズのアワードには16ものカテゴリがあるのですが、なかでも異質なのが、Creative Effectiveness Lionsというカテゴリです。その評価ポイントはアイデア25% 戦略性25% そして結果・効果が50%、つまり「クリエイティブによってもたらされた効果を定量化して競う」ものです。前年度に何らかの賞をとったキャンペーンが対象で、主催者の調査に加え、PwC(世界的なコンサルティング会社)が、評価数値が正しいか、データソースや計算式などに問題がないかなどのチェックもおこないます。
 今年の受賞は、ハイネケン。安売りさせないためにプレミアムビールとしてのイメージ保持に成功し、さらに難しいとされているプレミアムビールの売上を5.3%伸ばしたことが評価されたようです。以下のビデオは、審査委員長のShelly Lazarusさんのインタビューと紹介ビデオです。彼女も強調していますが、「最も重要なのは”売上”。エンゲージメントだとか、コネクトしたとかいろいろ言うけど結局は売上を上げたかどうか」確かにその通りです。しかし、その貢献度をどう計測するかは、やはり難しいですよね。PwCの評価レポートには、どんな風に書かれているのかそちらも気になります。

 


【番外】
 今年新設されたアワード、Innovation Lionsはコミュニケーションの新しい方法を提案するテクノロジーに対する賞で、脳波で動くウェアラブルネコ耳(?)やIBMの原子を動かして作った映画(?)など、まさにイノベーティブな技術が並ぶ中、グランプリをとったのは”Cinder”。Cinderはコンピュータプログラミングに使うツールで、画像、音声、ビデオ、画像処理、新しい入力機器などをプログラム上で扱いやすくするものだそうです。人の動きに反応して画像が動いたり、最近ではARやプロジェクションマッピングなど高度な音声・画像技術がコミュニケーションツールとして使われるようになっています。そんな高度な技術を簡単に使えるようにすることで、クリエイターの創造性をバックアップする目的で作られています。ちなみに「クリエイターの作業工数が○○%削減できた」のような結果は書いてありませんでした。

 新しい賞だけにどんなものが出てくるのか注目していましたが、まさか”要素技術”が賞をとるとは私も驚きでした。いま広告業周辺にはアドテク絡みで、優秀なエンジニアの方がジョインされてきています。そのような方はカンヌライオンという存在をご存知ない方もいらっしゃると思いますが、 世界に注目される近道がここにある気がします。チャンスですよ、みなさん。

 

 カンヌライオンズ受賞作についてちょっと違った視点から書いてみました。実は私、カンヌライオンズには一度も現地に行ったことがありません。ただ、年々アナリティクスやテクノロジー絡みの要素が増えてきているのは間違いありません、そろそろ私のような分析屋も参加すべきではないかなと思い始めてきました。まずは、9月に行われるカンヌライオンズのアジア版であるSPIKES ASIAに参加し雰囲気を掴んでこようと思っています。その時の模様はまたどこかでお伝えしようと思います。



注)今回使用したデータソースは、事例紹介ビデオおよびカンヌライオンズ公式サイトの記述を使用しています。

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