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Between the tall buildings.

日本と世界との間に在る小さくて大きなマネジメントのギャップ

 

日本と外資、双方の広告会社で20-30代を過ごし、40代で外資のブランドコンサルティング会社の経営者へと転じた小々馬 敦(こごま あつし)氏の独自の視点から、日本企業とグローバル企業の間に存在する経営、マーケティング、そして広告管理に関する小さいけれど無視できない大きな違いについて語る!(全10回予定)

小々馬 敦
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第3回:ブランドエクイティに関する誤解と誤用

 今回で3回目の寄稿です。今回のテーマは前回のコラムで触れましたが「ブランドエクイティ」に関する日本企業における誤解についてです。

    ブランドエクイティは、耳に心地よいマジックワード?

 皆さんも提案書やミーティングで、「ブランドエクイティ」というワードを頻繁に使われていることと思います。「当社の最大のブランドエクイティである認知度を活用。」とか、「このキャンペーンの目的は新製品のブランドエクイティを高めることです。」など、ブランドエクイティの概念の生みの親である、D.A.アーカー氏(以下、信愛を込めてデイブと呼びます。)と働いていた人間としては、クライアントやスタッフから、このワードを聞くたびに、ここにも考え方が浸透しているのだなと嬉しく思うのですが、一方で、真意を理解されないままにマジックワードとして使用されているなと残念に思うことがあります。
 デイブは良くこう言っていました。「日本で講演すると多くの人が私のところにやってきて、ブランドエクイティのモデルを使っていると話しかけてくれる。非常に喜ばしいのだけれど、彼らはモデルの適用の仕方をしばしば間違っている。その原因は私の本の翻訳のまずさにもあると思う。『ブランド優位の戦略』で示したエクイティモデルは解説も不十分なために、ブランド認知や知覚品質など言葉が独り歩きし違った解釈をされている。この頃のモデルはまだ十分に洗練されていないので後にモデルを精緻進化させた『ブランド・リーダーシップ』の方を読んでほしい。」

 確かに、『ブランド優位の戦略』での解説は和訳がこなれておらず理解が難しいですね。(翻訳家の方の能力ではなく、英語原文のモデルの完成度が十分でないためだと思います。)この本のみを読むと、ブランドエクイティを構成する4つの要素のうち、ブランド認知を知名度(Awareness)と捉えてしまいますし、知覚品質は文字通りの知覚可能な品質(Perceived Quality)以上に理解することが難しいです。私は研究者の専門書を読むときにはなるべく年代順に用語の解釈を追っていくように注意をしているのですが、デイブに限らず、研究者の理論は年を追い進化し解釈が変化することがあります。研究者自身が「この解釈はいけてないな」と思ったら次の執筆で解説を進化させるのですね。

 日本の広告業界では、ブランドエクイティを認知度とイメージとして捉える傾向が強いと思います。
「ブランド認知」=知名度。「知覚品質」=「認識される品質」、「ブランドロイヤリティ」=「忠誠の度合」、そして「ブランド連想」=「ブランドイメージ」。翻訳された和文からそのように解釈されるのは自然だと思いますが、英語の原文から捉えなおすと、デイブの伝えたい意味が見えてきます。例えば、「ブランド認知」はBrand AwarenessではなくBrand Visibility、「知覚品質」はPerceived Quality からTrust & Perceived Qualityへと進化し、「ブランド連想」はブランドイメージではなく、Brand Associationsで、連想されるカテゴリーや商品の領域を意味しています。 


 以下、ブランドエクイティの4つの構成要素について英語の原文を参照しつつ意味を解説します。


1. ブランド認知(Brand Visibility)  

 「名前を聞いたことがある」という知名度(Awareness)とは異なります。Visibilityというニュアンスからわか   るように消費者に何が見えているのか。経験的な知識を伴うPerceptionがより近い概念で、消費者に事業(商品・サービス)のカテゴリーが正しく認識されているかどうか、レレバンス(関連性)を伴う認知の大きさを測定します。レレバンスが高ければ消費者にあるカテゴリーニーズが生じた際に購買を検討する際のリスト=考慮集合に入る確率が高くなります。 

2. 知覚品質(Trust & Perceived Quality) 
 単に「品質が良い」というイメージを測定するのではありません。消費者の考慮集合にリストアップされる競合ブランドと比較して購買を動機付けるだけの優位性、識別性があるか、その強さやカテゴリーでのリーダーシップ(想起量の順位)を測定します。
知覚品質は購買を決定づける要因であり、プレミアム価格の受容性をも高めますので、事業収益発生への貢献度が高く、ブランドエクイティの中で最も重要な管理要素です。

3. ブランドロイヤリティ(Brand Loyalty)
 購買、使用経験者をベースに継続購買に繋がる態度の大きさを測定します。満足度、購買意向度は、購買の前の意識段階であり、収益を生む不確実性が大きくエクイティの大きさを測る指標としては低いレベルにあります。ロイヤリティは反復購買の態度につながるより深いレベルの指標、例えば「必ず買いたい。必ず買う。」などのコミットメントレベルで測定します。

4. ブランド連想(Brand Associations)
 ブランドのイメージを測定するだけではなく、ブランドのイメージがどの事業(商品・サービス)の範囲にまで及ぶかを測定します。この範囲が事業、商品ラインの拡張の拠り所となり事業機会の最大化を支援します。


 デイブとケビン・ケラーは1986年に「ブランド拡張に対する消費者評価調査」を行い、ブランド連想と知覚品質が事業拡張を成功するために重要な決定因子であることを発見し『ジャーナル・オブ・マーケティング』誌に論文を発表します。この研究成果を起点としてブランドエクイティの概念がまとまっていきます。デイブは、1990年にブランドが資産的価値を有しているという考え方からブランドマネジメントの対象としてブランドエクイティの概念を提唱し、ケラーは、ブランドエクイティをマーケティング活動によって高めるブランドマネジメントの全体プロセスをまとめました。
ちなみに、マーケッターはケラーが提唱した「ブランド知識」というワードも頻繁に使用しますが、消費者の「ブランド知識」はブランド認知とブランド連想によって形成されます。好ましいブランド認知とブランド連想について予め設計し、マーケティング活動によって消費者の意識の中にブランド知識を形成する。形成されるブランド知識は態度を変容し消費行動へと導いていく。「知覚品質」「ブランドロイヤリティ」は意識を態度、行動へと変容させていく際のドライバーとなる。このように全体観を理解されると良いと思います。




    経営資産としてのブランドエクイティ。


 ここで、企業経営の視点からブランドエクイティについて解説させてください。
経営の本質は経営資源を未来に投資することです。エクイティとはファイナンスでは投下資本、主にヒト、モノ、カネの経営資源を指します。ブランドエクイティの本質は、ブランドも経営資源として活用し企業価値を生むことができるという考えで、デイブは「ブランドには顧客の認知やロイヤリティが内存しているので企業にとって収益の源泉となる。」と考え「ブランドをヒト、モノ、カネ、と同じように経営資源として捉えて管理すれば収益と企業価値を高めることができる。」というブランドエクイティ論を提唱しました。経営資源としてのブランドの資質を見極めて、どのように投資するかを意思決定することがブランドマネジメントの本質です。

    
    なぜ、ブランドエクイティを4つの構成要素に分解しているのか

 上記のようにブランドマネジメントの管理対象はブランドエクイティとなるのですが、ブランドエクイティは概念であり経営資源として管理するには漠としすぎています。そこで、管理と測定が可能なレベルの要素に分解する必要があります。4つの要素は、それぞれ市場調査によって数値化することが可能で、管理のパラメーターとすることができます。マーケティング活動では、好ましいブランド知識について4つの指標で定義し、それぞれの数値が目標通りに推移しているかどうかを継続的に判定管理していくことでブランドエクイティを計画的に高めていきます。


 誤解してはいけない大切なポイントがひとつあります。それは、ブランドエクイティを高めることがブランドマネジメントの目的ではないということです。提案書に「この広告キャンペーンの目的はブランドエクイティを高めること」と書いてあるのを良く見ますが、正確に書くとブランドを経営資源(エクイティ)として活用できる状態にまでレベルを高めるということです。マーケティングの最終目的は通常、顧客の創造によって事業/企業価値を増大することにあるはずです。経営資源レベルに高まったブランドエクイティを活用して新たな価値を創造する成果達成までがブランドマネジメントのプロセスなのです。


 もうひとつ、ブランドエクイティとサンクコスト(埋没コスト)について述べさせてください。
例えば、現在の知名度やイメージ。せっかく何年も掛けて育て得たもの。そのために掛かった時間と費用。これに執着することで未来への意思決定を誤ることがあります。特に日本の企業は、培ってきた時間と労力に対する執着が非常に強く、なかなかサンクコストを割り切れないと感じます。対して外資企業は非常に合理的な判断をします。経営資産として活用できないレベルの知名度やイメージはエクイティとして認められないと判断し、埋没コストと割り切って捨て去り新しい資産の形成に注力することを選択します。

「時間と労力を掛けて培った結果、今ここにあるもの。」は財産です。エクイティは財産ではなく資産です。資産は未来に対して投資する戦略的な資源です。この違いが重要なのです。今ある財産としての知名度やイメージに不足感や問題を感じている場合には、もったいないという感傷を抑えて未来への投資に集中する判断が時には必要です。サンクコストを受け入れるためには、自社のブランドエクイティを測定し資質に関して正しく判定することが助けとなるでしょう。

 
 

 最後に少しだけ自己PRをお許しください。昨年末から執筆しておりました『通勤大学MBA ブランディング』が総合法令出版社から今週発売されました。共著で私は第2章のブランドマネジメントの解説を担当しています。ブランドマネジメントに関するキーテーマを選び、ひとつずつ2Pの見開きで簡潔に解説する通勤途中で読める構成になっており、今まで大学や企業内研修で講義してきた内容をさらに要約しました。今回のテーマ、ブランドエクイティに関しましてもページを割いて紹介していますのでご興味のある方はご覧になってください。

 

 次回は「本当のヒーローは誰?」ヒット商品vs.ブランドと題して、単品のヒットを狙う日本企業とブランド単位で事業ポートフォリオを管理するグローバル企業のマネジメントスタイルの相違について紹介させていただきたいと思います。日本の広告会社の得意とするヒットメイキングと外資のブランドエージェンシーの比較についても記述できると思います。

今回もお読みいただきありがとうございました。

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