弘亜社がみる、東南アジアのOOH広告&商業施設事情

創業74年のOOH広告会社の弘亜社は、2010年から本格的に東南アジアへの進出を開始。
タイではバンコクのスワナプーム国際空港と市内を結ぶ国鉄路線「エアポートレールリンク(略称ARL)」の広告媒体と駅商業エリアの独占販売権を獲得。
このコラムでは東南アジアのOOH媒体(屋外・交通広告媒体)と商業施設の現状についてお伝えします。

苅部伸太郎

第3回:タイ・バンコクの商業施設事情

経済成長真っ只中の活気!
■バンコクの最低賃金額⇒2001年から2012年で約81%増加
■タイの自動車販売台数(2012年)⇒前年比80%増加(エコカー減税効果あり)
■携帯電話の人口普及率⇒約104%
■アパレル市場⇒2001年から2010年で約34.6%拡大
■映画市場⇒2006年から2010年で約55.7%拡大
■フィットネス産業⇒毎年10~15%で拡大
    上記の数字が示すようにバンコクを中心としたタイの経済は着実に成長しています。
短期的には政情による暴動や大洪水による経済の停滞はあったものの、日本をはじめとする海外からの投資や企業進出も増え続けています。
バンコクの人々は消費に前向きであり、街には広告が溢れ、海外からの多くの旅行者とも相まって賑わいを見せています。
今回のコラムでは、経済発展真っ只中のバンコクにおける商業施設の現状を取り上げたいと思います。
【多くの来場客で賑わうモーターエキスポ
 (多くの自動車メーカーが参加する展示・販売イベント)】

 

【百貨店に入るシネマコンプレックスの様子】

 

バンコクの賃金階層と消費意識
 商業施設を紹介するにあたり、まず人々の経済力と消費意識を把握したいと思います。
日本同様、バンコクにも経済格差は存在し、その格差は日本以上に大きなものです。月収による大まかな階層付けを行うと下記のようになります。

月収による階層(2013年3月現在1バーツ:3.2円程度)
低所得層:20,000バーツ未満
ローワーミドル層:20,000以上40,000バーツ未満
アッパーミドル層:40,000以上60,000バーツ未満
高所得層:60,000バーツ以上
富裕層:桁違いの富裕層が存在し、その数は少なくない

 現在の経済成長を担っているのは、他の東南アジア諸国と同様、ミドル層以上の人々です。特に、急速に拡大するミドル層に合わせてバンコク各地に彼らをターゲットとする大型スーパーやショッピングセンターが次々とオープンしています。賃金の上昇と、それに伴い生活の質を向上させたいという欲求は新しい消費を生み出し、経済を拡大させます。
タイの企業は、基本的には年功序列制度ではないので、同年代でもかなりの所得格差が発生します。また、タイの失業率は0.7%(2012年)と圧倒的な売り手市場(就業者)となっているため好条件の会社への転職が頻繁に見られます。また、将来的には起業を考えている人が多いことは日本との大きな違いです。
タイでクレジットカードをつくる場合、1万5千バーツ以上の月収が必要となりますが、大学卒業者の最低賃金が同額に引き上げられたことからクレジットカードによる消費は更に活性化されるでしょう。
現在のバンコクの経済と人々の意識は経済成長期の日本に近いと思われます。
多くのタイ人は、消費に対して積極的です。車や家を購入するためにローンを組むことにあまり抵抗がないように感じます。マンションは値上がりを見越して投資目的として購入する人も多く存在します。また、中古車の下取りは日本ほど値下がりしませんので、売却時にある程度のお金が戻ってくることも想定しているようです。景気低迷の影響で貯蓄意識が高くなっている日本とは異なりますが、既にこの様な状況を経験してきた日本人にとって彼らの心理を推察することは難しくないでしょう。

商業施設について
 バンコクの中心街は開発が進み近代的な商業施設が次々と開業する一方で、昔ながらの屋台や露店も同居しています。「近代化と前時代的」、「美しさと醜さ」という対立する二つの価値観の同居は、現代のバンコクのひとつの魅力になっていると思います。
今回は近年つくられた施設を中心に取り上げつつ、昔ながらのマーケットや屋台もご紹介します。
まず、バンコク中心街の主要百貨店からです。
■百貨店編
サイアムパラゴンデパート
    2006年に開業したこの巨大高級百貨店は、バンコクで1,2を争う人気と集客力を持っています。公称来店者数は1日18~20万人です。施設のコンセプトは「Pride of Bangkok」。売り場面積は約50万㎡です。新宿駅の周辺にある伊勢丹、高島屋、京王、小田急の売り場面積の合計が21万㎡ですから、その面積の2倍以上を誇るサイアムパラゴンがいかに巨大であるかが想像できると思います。これだけの広さですから館内は余裕がある造りになっており、通路もかなり広く造られています。日本との建築法の違いもあると思いますが、バンコクの商業施設では、大胆な吹き抜けや複数階をノンストップで結ぶエスカレーターなど、日本では見かけない構造をしばしば目にします。

【サイアムパラゴンの外観】

 

【サイアムパラゴンの館内】

 

【サイアムパラゴンの館内】

 

百貨店の顔となる1階入り口部分は日本と同様に欧米のブランドショップが入居しています。また、日本と異なる店といえば、高級車のディーラーが入居している点でしょう。ロールスロイスやマセラッティーなどの「超」が付く高級車が販売されています。これらの店舗のターゲットは冒頭で言及した桁違いの富裕層たちです。

【入居する高級ブランド店①】

 

【入居する高級ブランド店②】

 

【入居する超高級自動車ディーラー】

 

 

百貨店などの大型商業施設は、企業にとっての販促の場としても活用されています。経済が発展しているとは言え、バンコクにも低所得者層が多くいます。百貨店を訪れる人は経済力があり、消費意欲が旺盛ですから、企業としてはターゲットを絞った費用対効果の高い販促ができる訳です。対象商品は、マンションや高級車、バイクなどの高額商品です。
【百貨店のイベントスペースで行われた着工前のマンションの販売会】

 

セントラルワールドデパート
    この百貨店は伊勢丹とZENという2つの施設からなるショッピングコンプレックスです。売り場面積は約55万㎡。開業は1990年ですが、2006年前後にホテルやオフィス棟などを併設しリニューアルしました。バンコク中心街においてサイアムパラゴンと双璧をなす商業施設と言っていいでしょう。
【セントラルワールドの外観】

 

セントラルワールドの前には恋愛と商売の神様が祀られており、多くの人々が花を供えています。セントラルワールドに限らず、タイの商業施設やオフィスビルには、神様が祀られている場合が多く、お供えをするタイ人の姿を多く見かけます。とてもタイらしい光景です。
【セントラルワールドの前の祭壇】

 

また、セントラルワールドの前には幅200m前後のスペースがあり、PRや販促目的のイベントが頻繁に行われています。下の写真は、同所で行われた市販のスクーターによるレースイベントです。参加者は一般市民で、2日間にわたり予選と決勝が行われました。同期間中に多くのバイクメーカーが百貨店の内外で実車展示イベントを行い、同百貨店はバイク一色となりました。
【百貨店前のバイクレース会場】

 

【会場横のバイクメーカーブース】

 

【百貨店内のバイクメーカーブース】

 

ターミナル21
    ここ数年に開業した商業施設の中で成功を収めている施設のひとつがターミナル21です。開業は2011年です。施設のコンセプトは「世界各国の空港ターミナル」です。9階建ての施設は各階が東京、サンフランシスコ、パリ、ロンドンなどの装飾テーマを持ち、各階をつなぐエスカレーターの乗り降り口には「出発」「到着」の表記があり、各都市へのゲートとなっています。この施設の特徴のひとつは、大手アパレルに加え個人経営などの小規模店舗が100店舗以上入居していることです。既存のアパレルメーカーにはない個性的な洋服も購入することができます。それらの洋服の価格は、Tシャツで250バーツ前後といったところです。
【ターミナル21外観】

 

【3フロアーをスキップできるノンストップ急行エスカレーター】

 

【館内の案内表示はタッチパネル式】

 

【個性的な洋服を売る小規模店舗@ロンドン階】

 

【タイの人気アパレル大手「CPS CHAPS」の店舗】

 

 

■昔ながらの商業施設編
    上記のような新しい商業施設が増える一方で、昔ながらの商業施設もまだまだ健在です。衣類から雑貨、美術品まであらゆる商品が揃う場所といえば、週末のみ開店するチャトチャック・ウィークエンドマーケットです。1982年に開業したこのマーケットは、敷地面積1.13km²のなかに1万5,000もの店舗がひしめく巨大マーケットです。1日の来場者数は20万人以上と言われています。タイは年間1,500万人もの海外旅行者が訪れる観光大国です。欧米人や日本人が思うタイらしい土産や手頃な価格の商品を求めて、旅行者の多くがこのマーケットを訪れています。
【鉄道駅からマーケットへ向かう人の列】

 

【トタンやテント素材でできた昔ながらの店舗】

 

【小規模店舗が並ぶマーケット内】

 

【絵画コーナーは欧米人に人気】
タイ人アーティストによるモダンな作品も多数。

 

 

街中の屋台・露店
    最も小規模な商業施設である屋台や露店も街の至る所で目にすることができます。1食あたり40~100バーツという低価格で食事ができる屋台は、中間層 にとっても重要な場所です。タイ人の多くは食事を外食で済ませることが多いので、彼らにとって屋台は日常のダイニングという訳です。私も弊社のタイ人ス タッフが朝や昼に屋台で弁当を買い、オフィスで食事をしている姿をよく見かけます。
日本人から見ると低価格の屋台にも経済発展の影響は確実に及ん でいます。数年前までは30バーツ前後だったメニューも今では1.5倍程度に値上がりしてきています。タイのインフレ率を見ると、ここ数年は3%以上で推 移しています。最低賃金も確実に上昇していることを考えると許容範囲内でしょう。
【街中の屋台の様子】

 

 

 

 

今後の動向について
    開業が相次ぐ大型商業施設も全ての店舗が成功している訳ではありません。特に商業施設が集中するバンコク中心街では勝ち組・負け組の差がはっきりと判る状況も出てきています。大型施設というだけでは目新しさは無くなっています。現在は「どこで差別化するか、特長をつくるか」というコンセプトやマーケティング戦略の重要性が増しています。また、コンセプトや戦略を実現する実行力や完成度も問われることになるでしょう。
また、小規模商業施設に関しては、経済成長の中でどのように生き残っていくのかは個人的にも興味がある所です。飲食市場を例にすると、タイの場合、チェーン店より個人商店の方が低価格であり、チェーン店はハレの日使い、屋台や定食店は日常使いというすみ分けができています。ミドル層の拡大、サプライチェーンの改善、インフラ整備などが更に進めばチェーン店間での価格競争が激しくなることも考えられます。そして、その影響は小規模店へも広がるかもしれません。近年、日系飲食企業のタイ進出が相次いでいますが、今後は生産拠点だけでなく、消費市場としての魅力も増しているタイの様々な市場において、ローカル企業、海外企業入り乱れての競争が更に繰り広げられていくでしょう。

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