広告業界の最新動向が5分でわかる無料メルマガ!

ほんのちょっと未来の広告を考えてみる

ちょっと先に見えている広告の未来。そのための研究を行っているマイクロアド未来広告研究所がお送りする、広告テクノロジーとデータ利用の話。(全6回)

中川 斉
バックナンバー コラムニストへお問合せ

第2回:気持ち悪くない広告

前回、ターゲティング技術が進んだちょっと先の未来の広告について考えてみました。皆さん、どうお感じになられたでしょうか。

広告関係者の中には、未来の広告で何ができるかワクワクしながら考えた方もいらっしゃるでしょう。しかし、広告が追いかけてくる仕組みに、「コワい」、「気持ち悪い」と感じられた方も多かったのではないかと想像します。

そもそもほとんどの方にとって広告とは、「楽しんでいる途中に割り込んでくるジャマモノ」だったり、「必要ないのに意識中に踏み込んで くる迷惑な存在」という認識ではないかと思います。そんな迷惑なモノから、自分の名前を呼ばれたり、欲しくもない物をオススメされたら、さらに腹が立ちますね(なんて広告屋のクセに言ってみました)。 このように広告の進化には技術的な課題だけではなく、運用面や視聴者側への配慮など、新たな問題も想定されるでしょう。

ダイレクトメールやeメール広告、行動ターゲティングやリターゲティングなどの、広告対象をかなり絞り込んだ広告が広く利用されるようになってから、広告に関するプライバシー問題について議論が盛んになってきています。プライバシー問題の目的は、「市民の利益・権利を守る」ことであり、詐欺や窃盗などから市民を守ったり、気分を害することなく生活できるようにするためのものです。もちろん我々広告業者も関係法令の遵守はもちろん、プライバシーについては十分に議論する必要があります。

一方で、それとは別の意味で「気持ち悪がられない」、「不快にさせない」ことも考えないといけません。広告は、商品を好きになるとか、買いたくなるという効果があって初めて意味があるものなので、不快に思われてこの会社のモノは買いたくないと思われてはいけないからです。”不快にさせない”ことについて、今回はもう少し考えてみましょう。

もはや広告じゃないものを探す方が難しい
Times Square Photo bysnorpey

普通に生活していると、我々は無数の広告に接しています。朝目覚めてTVを付ければ、番組の合間にCMが流れます。場合によってはCM以外にもインフォマーシャルやPRが挟み込まれることもあります。通勤中にも街頭看板、駅貼り広告、車内広告、街頭 TV、デジタルサイネージなどが目に入ります。新聞や雑誌、ネットにも無数の広告があります。我々は日々そんな生活を送っているので、”広告っぽいもの” を見かけるとそれを意識しないうちに、”見なかったことにする能力”を持っています。専門用語では ad avoidance といいます。

「新聞の下1/3は広告」とか「ポータルサイトの一番上にある横長の部分と、右上の四角は広告」などわかりやすいモノに加え

 「街を歩いていて、あまりにも浮いているところは多分広告」とか

 「タレントがロゴを見せるように商品を持っていたら広告」など

認知学的にはなかなか高度な説明が必要なケースでもちゃんと判断されています。

もちろん広告費を自由に使ってもよいのなら、圧倒的な広告量で振り向かせることも可能ですが、現実的ではありません。

広告に慣れた人に、広告を意識してもらうために、大きく以下の3つの方向性があると思います。

1)強烈に目立つもの

2)広告っぽくないもの

3)自分にとって必要な情報かもしれないと思われるもの

1)強烈に目立つもの

強烈に目立つものと言えば、過去にアパレルブランドのベネトンがオリビエーロ・トスカーニと組んで行った広告が思い出されます。なかなか刺激的なものが多いので、画像をリンクすることも控えますが、「ベネトン トスカーニ」あたりで検索すればいろいろでてきます。

エイズ患者差別の問題、生と死、紛争、人種差別など重いテーマをかなり直接的な表現や批判的表現を用いて、ベネトンの世界観「みな平等でリアルな一人一人のためのアパレル」(私の個人的な解釈ですが)を伝えているのだと思います。さすがに強烈すぎて、賛否両論あったでしょうし、ぱっ と見でブランドに嫌悪感を抱く人も多かったでしょう。しかし、だからこそ、表現手法も含めた世界観に共感できる方はより強くブランドへの愛を深めたのかもしれません。ちなみにトスカーニが手がけた物ではありませんが、ベネトンはこれまた強烈な表現で2013年のカンヌ国際クリエイティブフェスティバル 2012で、プレス部門のグランプリを受賞しています。

Benetton "Unhate - The film"

強烈に目立つためには強烈な表現が必要なので、飛び抜けたアイデア、メディアコスト等ももちろん必要ですが、強烈な表現に伴うリスクも大きく、それを許容できるかが課題の一つです。

2)広告っぽくないもの

一見広告とは分からないように、広告を入れこむ手法もあります。プロダクトプレイスメントやステルスマーケティングもこの一種です。ウソや生活者をだますことは論外ですが、自然な文脈で情報を伝える、というか感じてもらうためには良い方法であり、こちらの流れが今後もより強くなって行くと思われます。最近のステマ事件のために、非常にネガティブな印象のあるステルスマーケティングですが、モラルを持って活用する分には決して消費者をだますようなものではないと思います。

一つ例をご紹介します。(また映画絡みで恐縮ですが)2004年に公開されたSF映画「アイ、ロボット」は、2035年が舞台ですが、そこにはAUDIがデザインした車が登場します。主人公が乗っている車なので頻繁に出てきますが、その車の広告を見せられている訳ではないので、よっぽどのAUDI嫌いでなければネガティブな印象を持つ人はいなかったと思います。そしてAUDIはその2年後に似たデザインの市販車R8を発売しました。「2035年のあの車がタイムマシーンに乗ってスクリーンから出てきた!!」という感じです。AUDIはそんな未来の技 術とまでは言わなくとも、最先端の技術を持っている会社なんだというブランドイメージを伝えるのに成功したのではないでしょうか。

左:「アイ、ロボット」中にでてくるコンセプトカー 右:市販車R8 ともにwikipediaより

3)自分にとって必要な情報かもしれないと思われるもの

的確なターゲットに対して的確な表現で、情報を伝えることができるならば、その人にとっては広告ではなく、「自分にとってよい情報」です。これならばもちろん耳を傾けてくれるでしょう。ターゲティングやインサイトの分析などは昔から研究されていますが、これまでは一人一人にカスタマイズされた広告を届けるのが難しかったため限界がありましたが、我々も研究しているターゲティング技術の進化で大きな変化が起こっています。

現在、一部のバナー広告において一人一人を選んで広告を出すことができるオーディエンスターゲティングという仕組みが既に稼働しています。弊社の主力製品「MicroAd BLADE」はこの仕組みを広告出稿者が簡単かつ効率的に使えるようにするためのツールで、強力なデータ分析エンジンを組み込むことで成果をあげることに成功しています。

ターゲティングに関して我々が日々研究をしている中で、解決しなければいけない課題が明らかになってきています。

その一つが、

 「中途半端なターゲティングは、より不快感につながっている」ということです。

私は40代の男性なのですが、最近ウェブサイトでよくみかける、

 「40代のあなたへ。。。。」

 「○○大卒業生、年収○○の転職活動」

のような具体的な情報を含むコピーが目に入ると、自分に話かけられているように感じるので、少なくとも一度は目に留まります。そして興味があればクリックします。広告としては成功していますね。しかし、その商品に興味があろうが無かろうが、毎回、広告には目がいってしまうので、何度も同じことが続くとさすがに不快な気持ちになります。もしその広告が「女子高生のあなたへ。。。」だったならば、無意識的に無視するので、毎日広告を見ていたとしても迷惑とは思わないでしょう。「何かしら目を引くんだけど、興味がまったく無い広告が頻繁に目につく」というのが問題なんです。

「何かしら目を引く」だけを目的するならば、CTR、サイトのアクセス数などをチェックしつつ、広告表現を改善したり、CTRが上がるような広告出稿を行えばよいのですが、それだけしか見ていないと、「迷惑な広告」を生み出してしまう可能性があります。この場合の単純な回避策としては一人当たりの広告露出回数や頻度を制限する(フリークエンシーキャップ)をかけることです。

ただし「その広告を必要とする人だけに広告を届ける」ことでしか根本的な解決にはならないと思います。我々もこの研究に取り組み始めているところですが、既存のWeb内行動だけでできることと、それ以外のデータを合わせることでできそうなことなど少しずつ分かってきたところ です。心理学、行動学的アプローチも必要ですし、既存のリサーチ的な手法も活かせそうです。

バナー表現でも人によっては気分を害するものがあります。ちょっと前に、よく見た「ECサイトの商 品ページを見た商品の写真が表示される」広告。まだ検討中ならよいのですが、「その商品または別の商品を購入済み」ならばまったく必要の無い広告です。やはり自分が見たことがある写真なので、目がいってしまいます。そして不快さを感じる方も多いでしょう。この場合の改善策として、「購入したら表示させないようにする」ような制御をかければ 解決します。精密に制御するにはなかなか難しいですが、技術的に不可能ではなく徐々に実現されるでしょう。

このように、ターゲティングも広告表現に関しても『中途半端なカスタマイズがかえって気持ち悪さを助長してしまっている』というのはご理解いただけたと思います。

さらに技術が進めば、そのときの気分、誰と一緒に何をしている時か、シーン、オケージョンなどもリアルタイムにセンシングして、気持ちを汲みとった広告ができると面白いですね。最近の画像認識技術があれば、何人が画面の前にいて、それぞれの性年代、姿 勢、楽しいのか/悲しいのかなども分かります。これまでのデモグラフィクス、行動履歴に加え、価値観・ライフスタイルやシーン/オケージョンまでターゲティング要素に加わって、中途半端ではないカスタマイズが実現されることで、「気持ち悪い広告」ではなく「自分にとってよい情報」が増えて行く世の中にして行きたいです。

次回は、そんな我々が実験している新たな広告最適化についてちょっとだけご紹介します。

PAGE TOP