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グローバルビジネスで活躍したい広告人へ 

Between the tall buildings.

日本と世界との間に在る小さくて大きなマネジメントのギャップ

 

日本と外資、双方の広告会社で20-30代を過ごし、40代で外資のブランドコンサルティング会社の経営者へと転じた小々馬 敦(こごま あつし)氏の独自の視点から、日本企業とグローバル企業の間に存在する経営、マーケティング、そして広告管理に関する小さいけれど無視できない大きな違いについて語る!(全10回予定)

小々馬 敦
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第2回:「差別化」って本当に必要ですか?

今年も宜しくお願いいたします。昨年末から3月末に出版予定のMBA教科書の原稿執筆に追われて投稿が遅くなってしまいました。申し訳ありません。

さて、今回のテーマは「ポジショニング」です。ポジショニングそして差別化、セグメンテーションは広告会議の必須用語ですね。でも、これが結構曲者で本来はチームが共有する戦略フレームであるポジショニングという用語に多用な解釈が含まれているため、「CDはポジショニングが曖昧なので差別化が必要だと言うけど、戦略ポジショニングについてはちゃんと説明したのに・・・」と会議で議論が噛み合わないことが起こります。特にブランディング案件の場合、ブランド戦略の策定が先行し広告戦略へと引き継いでいきますのでポジショニングに関する解釈のすれ違いが起こりやすいと思います。この相違をうまく整理することでプランニングのチームワークはもっと捗るのではないかと考え今回のテーマとして取り上げました。

■「ポジショニング」で混乱が起こるのはなぜ。

私の経験ではこのすれ違いは企業広告プランニングの際に起こります。例えば私が企業広告の企画会議で企業が目指す戦略ポジショニングについてブリーフィングします。その内容は「当企業は業界内でナンバー2の集団に位置しているが、リブランディング実行により5年後にはリーダー企業のポジションにシフトアップすることをビジョンとしています。今回の広告目的は現リーダー企業と遜色ないグローバル企業へと市場の認識を変えることです。」クリエイティブが質問します。「この企業のオンリーワンは何ですか?」「決定的な差別性がないとポジショニングが曖昧で凡庸な広告しか制作できないですよ。」私の回答です。「今回は企業ブランドの差別化は劣後です。差別化は商品レベルで行い、企業ブランドは広い事業領域を束ねるアンブレラとしてビジネス機会をより大きく捉えるために、グローバルリーダー企業の1社と認識されて見込み顧客の選択リストに入る確率を増大することを優先します。ユニークネスを主張しビジネス機会をニッチにしないように気をつけましょう。」互いにポジショニングの重要さを主張し合っているのですが、私が指しているのは戦略オプションで差別化=識別=差異性レベルに捉えていること、そして、頭の中に描いているのは業界市場マップなのに対して、クリエイティブの頭の中には消費者の意識マップが浮かんでおり、ポジショニング=差別化=ユニークネスのレベルに捉えているので、理解し合い合意が形成されるのに時間を要してしまいます。ブランド戦略、広告戦略とそれぞれの戦略フレームの理にかなっているのですが、ポジショニングの地図と差別化のレベル感、この違いがすれ違いの原因になっていると思います。

そこで、これをなんとか整理できないかと常々思っていました。以下は学術的説明を実務家が折り合いをつけ易いように関連付けたものです。やや乱暴な整理ですが私見としてご参照ください。

■「ポジショニング」と「差別化」について整理しました

ポジショニングの概念は、①経営戦略、②ブランド戦略、③マーケティング戦略、④広告戦略、4つのレイヤー(層)によって少しずつ異なっていると思いましたので、それぞれに馴染みのグルによる説明を引用しつつ整理にチャレンジしてみます。

① 経営戦略におけるポジショニング

戦略系コンサルのレポートには戦略的ポジショニングが良く登場します。Mポーターは、持続的競争優位を達成するために経営環境を分析し、どの市場で、どの製品やサービスで、どのように競争優位を獲得すべきかを、企業と事業(SBU)のレベルで①コストリーダーシップ戦略、②差別化戦略、③集中戦略の3つの戦略から選択することを推奨しています。差別化は戦略のひとつの位置付けでありリーダー企業との識別を取る差異レベルです。むしろ、集中戦略の方が市場を細かくセグメントし独自性を主張しますのでより差別化のニュアンスに近いのではないかと思います。この差別化と集中の違いも混乱の元凶ですね。ポーターはポジショニング学派を代表する学者で、経営環境の分析を重視し業界で優位となるポジションの選択を主眼とし、描いている地図は業界地図です。

② ブランド戦略におけるポジショニング

ポジショニング学派に対してコアコンピタンスをベースとする優位性を発揮可能な市場を選択し成長すべきと主張するのが資源ベース理論です。ブランド戦略はこの経営学派の脈上に在ります。D.アーカーはアンゾフの成長マトリックスに触発されブランドエクイティを資源ベースとしてブランドポートフォリオ拡張による企業成長を提唱しました。私的な話ですが私が彼のビジネスパートナーに就任した際にマンツーマンで数時間レクチャーを受けました。それはブランドエクイティに関する世の誤った解釈について確認でき価値ある時間でしたが(次回のコラムで紹介しますね。)、その時にポジショニングを説明するメモを書いてくれました。残念ながらメモは残っていないので図に起こしてご覧いただきます。

このメモはポジショニングとはスタティック(静止的)ではなく、ダイナミック(動的)な将来の事業成長シナリオであることを説明しており、ブランドエクイティを顧客接点の革新によって増大しビジョンゴールに向かってポジションをシフトアップしていくというブランドマネジメントの原則を示唆しています。私のポジショニング理解は市場調査でのポジショニングマップでしたので時間軸上の~ingの成長シナリオ図はとても刺激的でした。

もう一人のグル、K.ケラーはマーケティング活動によりブランドエクイティを増大するプロセスを体系立てました。ブランド知識という概念によりポジショニングは消費者の意識の中へと入り込みます。そして、ブランドの属性、カテゴリー、ターゲット顧客、提供価値などマーケティング計画のエッセンスをポジショニングステートメントに明文化します。

③ マーケティング戦略におけるポジショニング

現代マーケティングの父、コトラーはシェアの大小による①リーダー、②チャレンジャー、③フォロワー、④ニッチの4つの市場ポジションに応じて、とるべきマーケティング戦略が導かれる。差別化はチャレンジャーが採るべき戦術と説明しています。そして、ポジショニングはマーケティング戦略のフレームワークであるSTPパラダイム(セグメンテーション、ターゲッティング、ポジショニング)の最終工程にあります。描かれる地図はターゲット消費者の心の中にあるセグメンテーションで、プロットするのは主に製品ブランドです。

ケラーとコトラーによって経営事業レベルの戦略ポジションが製品レベルのマーケティングへとブリッジされたように思えます。彼らが提唱した様々な手法が国内外の広告会社のプラニングツールの起源となっており、マーケティングプランナーのポジショニング解釈はこの影響が強いと思います。経営戦略に関わるコンサルタントは、消費者の意識の中で独自のポジションを獲得するために、市場をセグメンテーションし標的顧客のベネフィット差別化を追求するというマーケティングの本質についてもっと理解しなければいけませんね。

④ 広告戦略におけるポジショニング

さて、いよいよ広告です。これも私見で恐縮なのですが広告計画において「差別化=ユニークネス」が過剰に重要視されているように思います。海外のクリエーターとの仕事でも感じるのですが、J.トラウトの著書「ユニーク・ポジション Difference or Die.」の影響を強く感じます。元々、広告業界の「アド・エイジ誌」の連載で業界人向けに書かれているので、面白く読めるように取り上げているケースはチャレンジャーまたはニッチポジションのブランドに際立っており、汎用が容易な戦略ではないと思います。私自身も10年以上前に読んだ際にそう理解してしまったのですが、ポジショニング=ユニークネス/差別化と捉え、その前提で企画会議が進むと広告計画に慣れていないコンサルタントは違和感を感じることが多いのです。前述とは逆に、クリエーターの方にはコンサルタントが言う戦略ポジショニングとはユニークネスよりもむしろ集中を指していることを理解すると戦略ブリーフィングをスムースに受け入れられると思います。そういえば、トラウトもコラムやインタビューでは「差別化」のワードよりも「集中(フォーカス)の重要さ」を主張していますね。

さて、以上をチャートにまとめました。

経営戦略、ブランド戦略では企業と事業を扱うことが多く、なるべくビジネス機会を大きく捉えられるポジションを獲得しようとする力学が働きますので差別化は劣後になりがちです。一方、マーケティング戦略、広告戦略では製品を扱うことが多く、顧客市場をセグメンテーションした差別化が命題となります。皆さんが既知のことを繋げただけで整理と呼ぶのはおこがましいのですが、この全体観と各レイヤーでの戦略思考の相違について共有することがプランニングチーム協働の良き出発点だと信じます。
今回も、長文になってしまい失礼いたしました。
お付き合いいただきありがとうございます!

次回は文中で触れました「ブランドエクイティに関する誤解」をテーマに、実は十分に理解されていない「ブランドエクイティを活用するブランドマネジメントの手法」について紹介させていただきたいと思います。

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