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シビアな効果測定でマス広告を救え!

 ネットメディアの台頭によって、その存在感を薄めつつあるマス広告。特に、テレビCMは「広告の王様」として常に広告の花形であったものの、時代を経るごとに、その効果が疑問視されることが多くなってきた。そんなマス広告を救うカギとなるのが、シビアな「効果測定」の実施。いったい、どのような効果測定を行えば、テレビCMをはじめとしたマス広告が力強さを取り戻せるのか!? 『CM好感度NO.1だけどモノが売れない謎』(ビジネス社)の著者である株式会社テムズ代表取締役・鷹野義昭氏が、その現状と未来を語る!

鷹野 義昭
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最終回:広告への「投資」が拓く未来、キーワードは“ROI”!

これまでテレビCMをはじめとする広告の構造をうかがってきた本連載も、今回で最終回を迎える。
 そこで、鷹野氏が語るテーマは「広告のROI」だ。「Return on Investment」つまり、広告を「投資」として考え、その費用対効果を精緻に分析する必要がある、と鷹野氏。ROIを捉えることによって見えてくる広告の未来とは、いったいどのようなものなのだろうか?

 

■広告は投資である
ーー前回のクロスメディアのお話をうかがっていると、広告は“購買に至る心理過程を育成する”ひとつの手段に過ぎないように感じます。消費者の懐具合や店員の態度、その日の天気など、あらゆる要因が購買に左右しているのですね。

 

鷹野義昭(以下、鷹野):“消費者のこころ”を動かすために、企業が莫大な予算を投じているのが広告です。ですから、テムズでは広告の効果を費用対効果として金額に換算して明らかにします。広告の予算が1億円であったのに対し、回収した金額が2億円と結果が判明すれば、企業側にとっても広告の投資効果が理解しやすいですよね。

 

ーーということは、分析結果で回収金額が投資を大幅に下回ることもある。

 

鷹野:その場合は、当然「広告を取りやめる」という選択もあるでしょう。だからこそ、その反対に広告を実施する意味も鮮明になってくる。ROIを客観的に数値化、見える化することが次の判断に向けて重要なのです。

 

ーー「ROI」とは、「投資収益率」という意味。あまり広告には馴染みのない言葉だと思うのですが。

 

鷹野:広告に対してROIという言葉が使われ始めたのは今から6〜7年前。最近になって、各社とも本格的に立ち向かおうとしていますが、ROIの明確化に挑戦した全ての会社が達成できているとはいえません。なぜなら、ROIが明確に出しやすい、テレビショッピングのような「ダイレクトマーケティング」の業態と、購買の前段階となるイメージ醸成が重要な、ブランド価値の高い「高級自動車」などでは、ROIを算出する難易度が大きく異なるからです。

 

ーーテムズが開発した解析パッケージ「C・ROI(クロイ)」は、それを明らかにする?

 

鷹野:はい。特に、情報があふれかえる現代では、広告などの情報や刺激をバトンのように渡していくことが大切になっています。メディアからメディアへといくつものバトンを渡していくことで、最終的なゴールである購買に結びつけていくのです。そのパス構造を明確化しないと、正しいROIの算出は難しいと考えます。

 

ーーROIを分析した事例には、どのようなものがありますか?

 

鷹野:ある飲料メーカーでは、アイドルを起用してCM、web、交通広告、モバイル広告などでクロスメディア展開しました。
 このキャンペーンが売上にどれくらい寄与したかを測定するため、前回お話した「C・ROI(クロイ)」の調査手法を用いて消費者の辿ったパス(通路)とそのボリュームを検証したところ、売上の3割程度がキャンペーンによってもたらされたという分析結果に。通常のキャンペーンだと、およそ1割程度がコミュニケーション施策の寄与となることが多くなっていますから、この売上の3割という数字は、非常に効率のいいキャンペーンだったと評価できます。ここまではあくまで、分析結果ですが、その後、実際の販売データと照らし合わせると、キャンペーン実施前に比べ売上が約3割増と分析結果とほぼ一致していたようです。

 

ーーキャンペーン全体の効果だけではなく、さらに個別の媒体もROIとして捉えていますね。

 

鷹野:この事例を詳細に分析していくと、テレビCMが購買に寄与した割合が最も高くなっていました。また、マス広告だけでなく、店頭でのPOPなどを使用したコミュニケーションも効果的でした。クリエイティブの面では、キャンペーンやタレントに対する好意なども、購買に影響をしていることが数値で実証できました。

 

ーーそして、これを金額ベースで分析する?

 

鷹野:金額換算することは非常に重要です。とかく調査結果では、“%”で表されますが、これではまだまだ曖昧な単位のテーブル上にとどまることになります。

 このキャンペーン事例では、全体に対するこの企業の投資金額は2億2千万円でしたが、キャンペーンの効果によって得た利益は3億円を記録しました。結果、ROIは136%と、投資としても非常によいものだったといえるでしょう。

 

ーーキャンペーン終了後、一定の期間は広告効果が持続するのではないでしょうか?

 

鷹野:はい。ですから、テムズで保有する忘却係数を掛けあわせて、キャンペーン終了後に漸減していくCMの効果までシミュレーションすることが可能です。そのうえで、ROIの136%は算出されています。

 

ーーでは、もしも分析結果でROIが100%を下回っていたら、その広告は有効でなかった?

 

鷹野:いえ。前回もお話した広告の「ストック効果」で、企業や商品に対する認知や好意的なイメージとしてコミュニケーション資産は蓄積されます。また、この飲料メーカーのキャンペーンでは、訴求商品だけでなく、同社が販売する同一カテゴリーの別商品も売上が2割上がることとなりました。

 

ーーCM対象商品だけでなく、自社の他商品にもいい影響を及ぼすのですね。

 

■広告キャンペーンの改善へ結びつけるために

ーー「C・ROI(クロイ)」では、どのような人を対象に調査を実施しているのでしょうか?

 

鷹野:調査対象は、大きく分けて2つのグループです。“平場”と呼んでいるランダム抽出された世の中の一般的な消費者と、該当商品の“購入者”です。この両面から見ることで、「世の中全体の動き」がわかり、さらにその「成功事例」として購買に結びついた消費者との差を分析することができます。なんといっても、ROIを算出する際に、「実際に購入した人々のキャンペーンによる心理変容」をしっかり把握することが重要なのです。

 

ーーでは、高級品ではどうでしょうか? 車やマンションなどは、購入者が少ないため、調査が難しいのでは?

 

鷹野:対象者の出現率が低い場合は、販売店などに協力してもらい、購入者に直接インセンティブを提供することで、ネット上のアンケートに誘引します。「C・ROI(クロイ)」はパッケージ化されたサービスですが、イレギュラーな部分にもしっかりと対応できるシステムとなっています。分析において最も重要なのは、あくまでも「クライアントが、どのように改善まで結びつけることができるか」ですから。

 

ーー実際のキャンペーンを実施する前に分析はできるのでしょうか?

 

鷹野: はい、事前段階でも、競合他社のキャンペーン構造を把握することでシミュレーションができます。すなわち、実際にキャンペーンを行っていなくても、自社の広告計画を他社事例をもとに推測できるのです。そして、事前に費用対効果の高い媒体を選別することが可能となります。

 

ーーひとつ疑問なのですが、企業にとって売上データや広告予算は機密事項です。あまり外部の企業には開示したくないものでは……。

 

鷹野:我々は各企業と深いパートナーシップを組んでいるので、多くの会社から売上データをお預かりしています。ただ、やはり、売上データを外に出すことはできないという会社もあります。そういった場合は、調査から導き出された係数を提出することで、クライアントの担当者でも簡単にROIを算出できるようにしています。

 

■購買行動心理の曖昧さを乗り越えるために

ーー「広告が投資である」という考え方は、昨今の経済状況や、そこでの広告の役割を考えても非常に納得できるものです。

 

鷹野:担当者にとっては「広告予算」ですが、経営者にとっては「投資」ですよね。近年、「ブランドマネージャー制」を敷く企業が増えてきて、商品に対して担当者が包括的な責任を持つ場合が多くなっています。宣伝部だから、商品開発だからという横割りではなく、ブランドマネージャーが縦割りでその商品のことを考えた場合、商品開発と同じように広告もあくまで投資の一環なんです。極端な話「広告をやめて商品開発に予算を注ぐ」というケースも考えられます。

 

ーーただ、そうすると、会社としての足並みが揃わないことが危惧されます。

 

鷹野:そう。特に広告においては、長期的な側面の強い「ストック効果」が軽視され、同じ企業の中で全く違ったトーンのCMが生み出されてしまう場合がある。そこをどうコントロールするかが宣伝部が果たすべき役割でしょう。宣伝も、もっと経営的視点を持ちつつ、広告をコントロールしていくことになるでしょうね。

 

ーー今後、広告はどうなっていくのでしょうか?

 

鷹野:コミュニケーション構造がこれほどまでに複雑化しているのだから、単純に「広告を出せばモノが売れる」という話ではなくなってきます。短期的な「フロー効果」と長期的な「ストック効果」を確かめ、構造を解明し検証することが主流になっていくでしょうね。そのような手続きを踏まないと、経営層から広告・宣伝そのものの必要性が問われてしまいます。もちろん、インターネット広告においてもそれは変わらない。単にバナー広告をクリックした回数ではなく、どこから流入したのか、ブランドイメージには影響したのか、クリエイティブの方向性は適切だったのか、そういったことまでしっかり検証しなければならないでしょう。

 

ーーより厳密な意味での“広告効果測定”が求められる?

 

鷹野:ただ、もちろん、完全に消費者の購買行動を定量化できるものではありません。人間の購買行動には、「何となく」という気分が大きく影響しており、とても曖昧で複雑です。簡単に構造を100%解析できるとは考えていません。でも、だからといって100%に近づける努力を怠ってよいということでもない。私は工学部の出身でもあり、寸分の狂いもなくきちんと動くということへの志向は強く持っています。しかし、人間の曖昧さがあるからこそ、この仕事は面白いんだと思います。

 

 この曖昧さを乗り越え少しでも真実に近づくためには、知見、実績を着実に積み上げることが大事なのです。私自身が広告の世界に入って25年、テレビCMとの関わりは非常に強く、近年ささやかれる「CMは効かない」という辛辣な言葉には胸が痛くなります。しかしそれは、当事者たちが「やるべきことをやってこなかったツケ」ではないでしょうか。まずは、厳格かつ客観的な効果測定を行い「マス広告の真の媒体価値」を明らかにすることが急務。将来、テレビCMをはじめとしたマス広告が生き残っていくためにも、“シビアな広告効果測定”から“今こそ逃げてはいけない”のです。

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