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ほんのちょっと未来の広告を考えてみる

ちょっと先に見えている広告の未来。そのための研究を行っているマイクロアド未来広告研究所がお送りする、広告テクノロジーとデータ利用の話。(全6回)

中川 斉
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第1回:最新事例から見る、ブランドコミュニケーションとターゲティングのこれから

 2002年、当時マーケティングコンサルタントだった私は、あるクライアント様とこんな話をしていました。

 

「広告ってどこまでターゲットを追いかけることができるんだろうか?ある友人同士の二人がコンビニで雑誌を立ち読みしながら『最近○○社の広告ってよく見るよね』『いや、俺は全然見てないけど・・・』みたいなことができればいいよね。」

 

 CRMでの”One to One”という考え方はあったものの、そのときはまだネット広告は限定的であり、雑誌やイベント、インストアなどでのマーケティング企画で、精度の高いターゲティングを実現するにはどうすればよいかを考えていた時のことでした。対象の商材は非常に嗜好性が高く、人によって好みがはっきりと分かれることがわかっていたので、かなり絞ったターゲティングの可否が大きな課題の一つでした。

 

 あの映画”マイノリティ・リポート”(注)が封切られたのはその直後です。他の広告関係者と同様、私も本筋でないところでドキドキし、広告の”未来”を感じた覚えがあります。あれから10年、我々は”マイノリティ・リポート”の世界に近づいたのでしょうか。それとも別の進化を遂げているのでしょうか。

 この連載シリーズでは、技術的進歩や社会環境の変化による、広告・マーケティング手法のちょっと先の未来の姿とそれに備えて今やっておかねばならないことについて考えてみたいと思います。

 

(注)マイノリティ・リポート:2002年に公開されたトム・クルーズ主演、スピルバーグ監督のSF映画。設定は2054年であり、コンピューターインターフェイスや通信機器、車や家電などにも”ありそうな未来”が表現されています。中でも主人公が歩いていると名前を呼びかけてくる広告や、状況に応じてカスタマイズされた広告表現が現れるなど、対個人レベルのターゲティング広告は、我々も納得させられるものがあります。レクサスやビールのギネスといった現存しているブランドが50年後を想定して広告を本気でつくるなど、絶妙なリアリティ加減も業界では話題になったポイントです。

 

 

■ストーリー/リアル/信頼
 数年前、デジタル手法が大きく発展し広告が技術品評会のようになったこともありました。しかし、その揺り戻しなのか、今年は原点回帰、もしくはマーケティングで何を解決すべきかという議論が盛んに行われているように感じます。実際、今年のカンヌ国際クリエイティブ祭やad:techなど、内外の様々なカンファレンスで共通してよく聞かれたキーワードは、以下の3つです。
1)ストーリーテリング(背景、理由、価値観、世界観、向かう先までひっくるめて伝えることで、ポテンシャルユーザー/ユーザーの共感を得る)
2)リアル体験(実際に起こっていること/オフラインでの体験)
3)信頼・信用(”自分にとって”大げさ過ぎたり嘘だったりしないか)
そしてこれらに新しい技術を絡めて課題解決につなげたキャンペーンが多くみられました。

 

分かりやすい事例を見てみましょう。

 

 

事例1)デンマークのアパレルブランドONLYのインタラクティブビデオ

↑こちらはケース紹介ビデオです。本サイトはこちら

 このサイトは一見ちょっと前に流行ったブランデッドエンターテインメントと呼ばれるショートフィルムのようですが、ただのムービーではありません。テクノロジーを使ったアイデアがふんだんに盛り込まれた体験型コンテンツになっています。ムービーの途中でクリックすると映像が一時停止し、出演者の服をクリックすればカタログが出てきます。もちろんそこから直接購入することも、FacebookやPinterestでシェアできるようにもなっています。また、視聴者がちょっとしたマウス操作をしないと先に進めないような仕掛けがあったり、劇中に使われている音楽をダウンロードすることもできるようになっています。


 ショートフィルムは観ているだけで楽しいものももちろんありますが、それだけではなく、インタラクティブ性を加えることで、実際にストーリーの中に入り込みやすくなり、かつ、その場で買うことができるなど、商品は商品として認識させることも同時に実現しています。さらにはSNSも加えることで信頼性も担保しようとしています。結果として、ブランドの世界とリアルな世界との架け橋になるという、巧みな構造を呈しています。

 

事例2)メルセデスベンツのミニバン VIANOの地下鉄駅でのキャンペーン

 

 自分の車のリモコンキーを押すと、デジタルサイネージ上の車のドアが開いて中から意外なものが出てくるというもの。キーで操作するというリアルな体験を通して画面の中の車が自分の車のように感じられ、そのベースがある上で、本来伝えたいこと「広いスペース」を自分の車のものとして思わせられることに成功しています。

 ”自分の車としてイメージしてもらう”ということでは、ポルシェのディーラーがカナダ行ったキャンペーンも興味深いです。

 




 (もちろんポルシェを買ってくれそうな)家の前に実車をおいて写真を撮り、その場でダイレクトメールに印刷・加工しポスティングするというもの。この例は極端なカスタマイズ・自分ごと化の例です。車のディーラーというローカルビジネスなので、あまりスケールする必要もないのですが、このコアアイデアを流用し、テクノロジーを利用すれば、何か面白いこともできそうですね。

 

 

事例3)スウェーデンのバス会社のキャンペーン


 雪の季節に電車は遅れる(とみんなが思っている)がバスは遅れないということを伝えるために、クリスマスに鉄道が”実際に”どれくらい遅れるかを予想してもらうというゲーム(賭け)を開催。当たった人には100ユーロ分のバスチケットをプレゼントするという企画です。リアルな事象(競合の弱み)をただ伝えるのではなく、賭けの対象にすることで自分ごと化し、列車が遅れるのはなんとなくみんなの共通認識としてあるが、実際のところどれくらい遅れるのかウオッチさせリアルなものとして可視化させています。競合の鉄道会社にとっては残酷(笑)なキャンペーンでした。

 

 以上の事例は「遠くあこがれの世界」ではなく「ちょっとだけ非日常だけどリアルな自分ごと」の世界に入り込んでもらうことで、情報量の多いストーリーを効果的に伝えられている好例です。

 

■ターゲティング技術のこれから

 この傾向はこれからも継続すると思われますが、今後期待されているターゲティング技術の発達により、さらなる進化が見込まれます。

 従来はマーケティングリサーチによりユーザーやポテンシャルユーザーの意識や行動を調査・分析し、コミュニケーションプランを策定していましたが、現在ではオンラインでの行動データからブランド態度やライフスタイルなどが少しずつですが分析できるようになってきており、自動かつリアルタイムにターゲットを判別することも一部では実現しています。一人一人に合わせた、”ちょっとだけ非日常だけどリアルな自分ごと”の世界を作り出したり、そのブランドの世界観にフィットする”ちょっとだけ非日常だけどリアルな自分ごと”をもつ人を特定してコミュニケーションを図る、といったことは、もう夢物語ではないのです。

  MicroAd BLADEなどDSPと呼ばれるネット広告手法では、従来のような広告枠を確保して広告を出すやり方ではなく、いまそのページに来ている人がコンバージョンしそうな人かどうかをその都度判断し、それに見合った媒体費の値付け(リアルタイム入札)を1つ1つの広告(インプレッション)毎に行い、広告掲出しています。アメリカでは2013年にはディスプレイ広告の20%がこの手法経由の広告出稿になると予想されています(出展:International Data Corporation, 2011)

 

 オーディエンスターゲティング+リアルタイム入札と呼ばれる、上記の広告技術は獲得効率を上げる手法として進化してきました。”獲得最適”は、コンバージョンという計測ポイントとそれに対するコストが明確なため、ROIを良くするための策やデータマイニング手法を適用し、機械的に自動運用することが可能です。

 

 一方でブランドコミュニケーションに必要な”認知”や”興味”のようなブランド態度指標は、いまのところ一般化されている計測方法・定義は存在しません。また閲覧ページ履歴から興味領域を推定することは可能ですが、その”理由”や”どんな人となり”なのかを分析することは困難であるといわざるを得ません。現在この領域は研究が進められており、今後の成果如何では広告全体に大きな進化をもたらす可能性があります。

 

 ニューロマーケティングと呼ばれる、脳波を直接計測し気持ちの変化をとらえる方法もかなり研究が進んでいますが、弊社ではWeb行動(検索、閲覧ページなど)から態度変容を抽出しようと研究をしている真っ最中です。ブランドに対する態度変容だけでなく、カテゴリニーズ(「車好きだけど、こないだ買ったばかりなのでしばらくは買わない人」や「本をたくさん持ち歩きたいけど、電子書籍の存在を知らない(潜在ニーズを持つ人)」など)も重要であると考えており、研究を重ねているところです。他の企業や大学等でもこの課題に取り組んでいるチームは多いので今後の成果が期待されます。

 

 現在、高度なターゲティング技術が適用できる広告メディアは限られていますが、スマートフォンはもちろん、テレビもOOHも雑誌もデジタル化され広告配信をコントロールできるようになれば、そのインパクトはかなり大きなものと思われます。

想像してみてください。
 「同じ雑誌を見ていても、見ている人によってそれぞれ最適な広告が掲出される」
 「テレビCMから目を離して、スマホを見るとテレビCMの続きが流れる」
 「街の看板にが、”○○さん!うちの商品はいかが?”って話しかけてくる」
これらに関連する要素技術の開発はかなり進んできています。かなり”マイノリティ・リポート”っぽいですね。映画のように市民全員の網膜データベースがあれば簡単なのですが(笑)、そうはいかないので代わりの技術を作っていかないといけませんね。

 

いかがでしょうか。ほんのちょっと先の未来を感じていただけたでしょうか。

次回は、Web行動を研究する際の課題について考えてみたいと思います。

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