ストーリーで口説く統合コンテンツ論

IMC(統合型マーケティング)プランニングを専門的に実践するインテグレートにて、デジタルメディア・コンテンツの企画立案、編集、運営を行うメディアソリューション部が、デジタル時代の「コンテンツ」について語るコラム。情報が一方通行でなくなった今、魅力ある「コンテンツ」とはどういうものか、分析、探究していく。

株式会社インテグレート
メディアソリューション部

第2回:ソーシャルメディア普及で再び脚光を浴びる「ストーリー・テリング」

 

 ここ数年、マーケティング手法として「ストーリー・テリング」を意識した展開に注目が集まっています。この手法は、なにもここ数年で生まれたわけではないことはご存知の通り。近年注目を浴びることになったのは、もちろんソーシャルメディアの登場と影響力の拡大が背景にあるからです。一般的に「ストーリー・テリング」とは、物語や出来事を言葉や音声、動画などを使って伝える手法で、古くから文化や教育の伝承など、様々な場面で用いられています。

 今回は、デジタル時代に求められているコンテンツを作っていくにあたり、重要な手法として「ストーリー・テリング」に的を絞って紹介します。

 

■まさに!ストーリーで生活者を口説く?!

 近年、テレビ業界では経済番組が人気だといいます。中でも人気なのは、企業や製品のほか開発者などをクローズアップし、見事なナレーションと共にその軌跡を物語風に展開しているテレビ東京「ガイアの夜明け」NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」。テレビを観ているうちに、登場する人物が製品開発に悪戦苦闘する姿に感情移入し、気が付くと翌日店頭で商品を手に取っていた・・・という経験がありませんか?これは演出の力、まさにストーリーが生活者に響いた効果です。

 

 「ストーリー・テリング」にはいくつか領域があると私たちは考えています。1つは、コミュニケーション上の手法。先ほどのテレビ番組や有名なソフトバンクの白戸家のCMの例がこれにあたり、製品・サービスなどに対して、キャラクター設定や特異な表現などで魅力的に伝える方法です。もう1つは、企業そのものを具体化するための手法。前者より上位概念のイメージで、製品・サービスはもちろん、事業活動すべての範囲で、それらを魅力的に伝える方法です。いわば、企業ブランディングに通じる領域と言えます。

 

■生活者が欲しているのは「選択を助ける感情」「共同制作」「共有する場」

 では、なぜ今「ストーリー・テリング」に関心が集まり、マーケティングに取り入れる価値があると期待されているのでしょうか。その主な理由に、次の3つが考えられます。

 ①生活者はストーリーがあることでモノの価値を見出している

 ②ソーシャルメディアの普及により、企業と生活者の間にインタラクティブ性が加速している 

 ③生活者の「シェア」する行動を想定すると、デジタルプラットフォームを
  中心に据えたクリエイティブが有効

 

①生活者はストーリーがあることでモノの価値を見出している

 前提として、現代社会は情報過多の状態が起きていることで、生活者はモノを買う際にひどく迷っているのです。そのため、選択を助けてくれる「感情」を必要としています。つまり、ミネラルウォーターAとミネラルウォーターBについて、成分や価格がほぼ同じだった場合、Aの製品を購入すると飢餓で苦しむ国へキレイな水を贈ることに貢献できるということを知っていたら・・・、直感的に選択ができるのです。ご存知の通り、これはコーズマーケティング(社会的貢献とビジネス目標の達成を同時に実現しようという考え方)の代表例とされるVolvicの「1L for 10L」プログラムです。

 

 また、生活者は消費行動において、モノが必要である以上に、そのモノが持っている世界観にも期待をしています。そこで「ストーリー・テリング」が世界観を語るのに必要なのです。実際に、モノの売買おいてストーリーが重要であることを証明した「Significant Objects Project」というアメリカで2009年6月から11月にわたって行われた実験があります。これは、オークションサイト「ebay」を使って、数種類の価値のない中古品などに、商品の写真と説明に加え、ライター達がフィクションのストーリーをつけ、逸話であることを明示した上で売り出したところ、仕入れ値以上の価格で入札されたのです。金額にして、約28倍。128ドル74セントで購入した数種類の商品が、全体で3612ドル51セントで売れたというのです。これらの結果、「物語はただのモノを価値のあるモノに変えるという仮説は100%正しい」ということが証明されました。

 

②ソーシャルメディアの普及により、企業と生活者の間に、インタラクティブ性が加速している

 数年前に語られた「ストーリー・テリング」と、現在のものとでは何か違うのかという視点からみてみます。2004年にお菓子メーカー「東ハト」が一貫してお菓子を仕事にできる幸福を表現した絵本「お菓子を仕事にできる幸福」(日経BP社)は、当時の「ストーリー・テリング」の代表例でしょう。しかし、ここでのポイントは話題の広がり方です。これはこの絵本など企業理念を何かの媒体を通して知った生活者にしか届かず、「クチコミ」といってもいわば人から人へリアルな会話などが中心だった記憶があります。

 

 一方で、現代版の「ストーリー・テリング」を見ると、この“広がり方”が明らかに異なるのです。Levi’sの例を挙げましょう。同社は、ジーンズが生まれてから138年の歴史上初めて世界24ヶ国同時に展開されるグローバルキャンペーン「GO FORTH」を2011年から始動しています。

 

「GO FORTH」とは地球のパイオニア(新しいことをする人、開拓者)を支援しようといった活動です。同社はその理念に基づき、水を減らして生産したジーンズを作ることに取り組み、アメリカで「ウォーターレスジーンズ」発売の際には、「Water Tank Game」といったプログラムを行い、店頭とFacebookやTwitter、QRコードなどを活用し、生活者が様々なお題をクリアするごとに、リーバイスが飲み水に困っている国へ寄付する水の量が増える仕組みを作りました。これは、同社の活動理念が広く伝わり、それに共感した生活者が行動を起こし、さらに友人たちの行動をも促すといった広がりがあり、企業と生活者が一緒になってブランドを盛り上げていく形です。

 

③生活者の「シェア」する行動を想定すると、デジタルプラットフォームを
 中心に据えたクリエイティブが有効

 ストーリー・テリングにより、製品(場合によっては企業そのもの)の今まで見えなかった背景や魅力を、世の中に伝えていきます。しかし、企業が伝えるだけでは終わりではありません。むしろ、そこからが重要なポイントです。発信した後は、企業と生活者が共同で作り上げていくのです。つまり、企業が発した想いに共感した生活者が、ソーシャルメディアなどの「場」を介して、一緒になってその世界観を盛り上げていくのです。

 

 Facebookでファンが3800万人を超えたアメリカのディズニーでは、ブランドの伝道師として一般のファンを採用しています。これは、2008年にサイト上で開設した「Moms Panel(マムズパネル)」というフォーラムで、ユーザーがテーマパークについての質問をできるデジタルプラットフォームです。この質問に回答するのは、なんとディズニー公認のファンたち(毎年応募により選ばれる)。彼女・彼らたちがディズニーの世界観を伝えていき、さらなるファンの拡大にも寄与している例です。

 

■「ストーリー・テリング」成功のカギは「コンテクスト」

 ソーシャルメディアの普及が「ストーリー・テリング」に再び注目が集まるカギになったことは間違いないのですが、逆にソーシャルメディアで話題になったものが必ずしも「ストーリー・テリング」の力によるもの、とは言い切れないのです。

 アメリカのブレンダー(粉砕機)メーカーのBlendtecの「Will it Blend?」の動画を観たことがあるでしょうか?(「砕けるだろうか?」といったキャッチフレーズと共に、iPodやフィギアなどあり得ないものをブレンダーで砕こうとする動画)ここで展開されたプロモーションは非常に面白く、YouTubeで1億9800万回以上再生され、FacebookやTwitterでシェアされ、話題を呼び、中小企業がソーシャルメディアを活用し、低予算で話題を作った成功事例と言われています。この成功要因は、なんと言っても視覚的な驚きと意外性をもったエンターテイメントだったという点です。

 

 しかし、私たちが近年注目しているのは、もう少し広い領域で考えられるストーリーです。このストーリーは何でも良いというわけではありません。インテグレートでは、生活者の購買行動を促すコンテンツを開発する「情報クリエイティブ」という独自のプログラムを採用しています。そのプログラムで、私たちが大切にしているのが「コンテクスト(文脈)」です。これは、企業の製品やビジネス(事業活動)が生活者にもたらす価値を、社会の動向や生活者の価値観との整合性を取りながら、新しいコンテクストで捉え直していくものです。(コンテクストについては、2002年に刊行された「ブランド戦略シナリオ―コンテクスト・ブランディング」(ダイヤモンド社)に詳しく紹介されています。)

 

 前記のVolvicやLevi’sの例のように、ファクトにもとづき、大きな構えをもった「ストーリー・テリング」が求められています。これからは、製品・サービスはもちろん、事業活動そのものをストーリー化して、企業の思いと生活者の価値観を「コンテクスト」でつないでいく「ストーリー・テリング」の手法がマーケティングにおいてより重要な役割を担っていくでしょう。

 

 今回は、マーケティング上の「ストーリー・テリング」の価値についてみてきましたが、この効果をより加速させるためにも、消費者を惹き付ける「パワーコンテンツ」の存在が重要となります。次回では、生活者を巻き込んでいく「パワーコンテンツ」の作り方について、紹介していきます。

 

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